第57回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-11] ポスター:高齢期 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PJ-11-5] 上手く関われた経験の成り立ち

岡田 直純1, 谷村 厚子2, 馬塲 順子1, 宮寺 寛子1 (1.群馬パース大学, 2.東京都立大学)

【はじめに】
 筆者は,作業療法士としての認知症の臨床実践を通じ,認知症のクライアントをどう見るかで支援の仕方が変わること,認知症のクライアントが経験している世界をいかに深く理解するかが支援の質を左右することを示してきた.作業療法士が認知症のクライアントの世界, そしてその人らしさを理解するためには,クライエントを内側から理解しようとする視点が不可欠であるが,その視点の獲得には,クライエントの世界に「上手く関われた経験」が影響する.
【目的】
 認知症のクライアントに関わる作業療法士の臨床実践経験を現象学的に記述考察し,クライエントの世界に「上手く関われた経験」の成り立ちを明らかにする.
【方法】
 認知症治療病棟で臨床実践を行う作業療法士を対象に,これまでの認知症のクライアントに対する作業療法臨床実践経験についてインタビューした.データ分析は現象学の態度を参考に,西村(2014)の方法に準じて行った.依頼に応じた研究参加者には,研究目的,方法,参加の可否は自由意志によることを文書を用いて口頭で説明し同意書への署名をもって同意とした.本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した.本研究における利益相反は存在しない.
【結果と考察】
 認知症治療病棟で臨床実践を行う研究参加者のうち,尾藤さん(仮名)の経験を記述考察する.尾藤さんの実践は,目の前の認知症のクライアントの困りごとに焦点を当てて関わることに主眼がおかれていた.そこではクライアントのためになにができるのか,という思考が働いていた.尾藤さんにとって「上手く関われた経験」は,クライアントを理解できたことと結びついていた.そしてクライアントを理解することに向けて,1他職種とともに,多職種のなかの専門職として関わる,2その場,瞬間につくる,3主役にならない,という実践をしていたと考えられた.
 病棟の他の職種の職員は,クライアントをケアする対象と見て,症状を安定,固定させる方向を志向していた.一方で尾藤さんの実践は,安定や固定を脱し,クライアントを動かし変化させることを求めていた.尾藤さんと他職種の関わりのベクトルが異なるため,軋轢も生じやすくなると思われるが,尾藤さんはこれを他職種の側に立つことで乗り越えようとしていた.クライアントのADLに目を向け,他職種と同じケアの場に身を置きながらクライアントの困りごとに焦点を当てる実践は,クライアントのために良いことであるだけではなく,それをケアする他職種にとっても,クライアントをケアしやすくなるという実のあるものであった.尾藤さんの実践は,他職種にとっても有益となることを持ち出して,そのための方略として作業療法の専門性を用いようとしていた.上記のようなクライアントに変化,動きを志向する尾藤さんの関わりは,その場その瞬間で相手の反応を見てかたちづくられるもので,その都度更新されていた.そして関わりを通じてクライアントの文脈や気づきをうながすことに十分に時間をかけ,その状況に浸るような身の置き方は,こちらが方向性を決めるのではなく,あくまでクライアント自身からの何らかの反応が出てくること,その出会いを共に迎えるべく,隣にいるありように支えられていたと考えられた.
文献:西村(2014) 西村ユミ,現象学的看護研究 理論と分析の実際, 医学書院,2014.