[PJ-12-1] 認知症治療病棟における自宅への退院支援の現状と課題
【はじめに】本邦では認知症者の入院長期化が社会的問題となっており,円滑な退院支援が期待されている.しかし認知症治療病棟においては,退院支援に関する技術不足や支援自体を行っていないなど様々な要因が早期退院を阻害している課題がある.昨今,自宅への退院支援の実態を調査した報告は見当たらないため,本研究では認知症治療病棟における自宅への退院支援の現状と課題を明らかにすることを目的として,筆者ら所属施設の研究倫理委員会の承認を得て実施した(第22MH027-01号).
【方法】全国いずれかの地方厚生局へ認知症治療病棟の施設基準届をしている全525施設(2022年9月現在)を対象とし,インターネットを用いたアンケート調査を2022年11月から約2ヶ月間実施した.各施設の認知症治療病棟専従の作業療法士宛に研究案内を送付し,アンケートの回答を依頼した.アンケートは自宅への退院支援に関する内容とし,過去1年間に自宅へ退院した人数,その平均在院日数,支援の充実度(6件法),携わっている支援者,具体的な支援の内容,退院支援の工夫や課題などについてデータを収集した.得られたデータはχ2検定及び正確確率検定(SPSS ver.28,p<0.05),また自由記述は帰納的にカテゴリー化し分析した.
【結果】190施設が研究に同意しアンケートへ回答した(回答率34.3%).回答者の98.4%は作業療法士であった.過去1年間に自宅から入院した者の内76.3%(n=145)が自宅へ退院し,その者の53.2%(n=101)は平均在院日数が90日以上であった.退院支援が非常に充実している~やや充実している「充実群(22.6%,n=43)」と,あまり充実していない~全く充実していない「非充実群(77.4%,n=147)」の2群間の比較では,介護士(p<0.001),公認心理師(p=0.008),地域包括支援センター(p=0.016),居宅介護支援事業所(p<0.001),通所介護(p=0.006),通所リハビリテーション(p=0.010),訪問介護事業所(p<0.001),認知症者の友人(p=0.047)等において,充実群の方が携わっている支援者が有意に多かった.自宅退院者の平均在院日数においては,群間差は認めなかった.充実群の自宅への退院支援の内容は,入院前・時は「情報収集」「入院生活の準備」「評価と介入」「自宅生活の整備」など,入院中は「多職種会議による目標・情報共有」「本人・家族・多職種での協働」「評価と介入」「自宅生活の整備」など,退院時・後は「会議を通した情報共有と引継ぎ」「家族や関係機関への申し送り」「退院後の継続した連携」などが挙がった.支援の工夫は「役割分担」「自宅生活の見通し」など,課題は「家族と支援者の認識の不一致」「家族の協力が不十分」「マンパワーや時間の不足」「地域連携の不足」「コロナ禍による障壁」などが挙がった.また非充実群の内,入院前・時は27.2%,入院中は23.2%,退院時・後は38.8%の施設が「支援をしていることはない」と回答し,「退院支援に関わってない」などの回答もみられた.
【考察】充実群は非充実群と比較して,多様な支援者らと連携を図っていることが明らかとなった.また充実群は,自宅生活を見据え,入院前から退院後まで継続した様々な支援を提供しているものの,家族や地域との協働,マンパワーや地域連携の不足などの課題が残っており,回答者が退院支援に苦渋している背景も伺えた.また退院支援の充実度と在院日数は関連しない可能性が示唆された.本研究において得られた新たな知見をもとに,認知症治療病棟における効果的な早期退院支援プログラムの構築に取り組んでいきたい.なお本実践は,JSPS科研費22K11265の助成を受けたものである.
【方法】全国いずれかの地方厚生局へ認知症治療病棟の施設基準届をしている全525施設(2022年9月現在)を対象とし,インターネットを用いたアンケート調査を2022年11月から約2ヶ月間実施した.各施設の認知症治療病棟専従の作業療法士宛に研究案内を送付し,アンケートの回答を依頼した.アンケートは自宅への退院支援に関する内容とし,過去1年間に自宅へ退院した人数,その平均在院日数,支援の充実度(6件法),携わっている支援者,具体的な支援の内容,退院支援の工夫や課題などについてデータを収集した.得られたデータはχ2検定及び正確確率検定(SPSS ver.28,p<0.05),また自由記述は帰納的にカテゴリー化し分析した.
【結果】190施設が研究に同意しアンケートへ回答した(回答率34.3%).回答者の98.4%は作業療法士であった.過去1年間に自宅から入院した者の内76.3%(n=145)が自宅へ退院し,その者の53.2%(n=101)は平均在院日数が90日以上であった.退院支援が非常に充実している~やや充実している「充実群(22.6%,n=43)」と,あまり充実していない~全く充実していない「非充実群(77.4%,n=147)」の2群間の比較では,介護士(p<0.001),公認心理師(p=0.008),地域包括支援センター(p=0.016),居宅介護支援事業所(p<0.001),通所介護(p=0.006),通所リハビリテーション(p=0.010),訪問介護事業所(p<0.001),認知症者の友人(p=0.047)等において,充実群の方が携わっている支援者が有意に多かった.自宅退院者の平均在院日数においては,群間差は認めなかった.充実群の自宅への退院支援の内容は,入院前・時は「情報収集」「入院生活の準備」「評価と介入」「自宅生活の整備」など,入院中は「多職種会議による目標・情報共有」「本人・家族・多職種での協働」「評価と介入」「自宅生活の整備」など,退院時・後は「会議を通した情報共有と引継ぎ」「家族や関係機関への申し送り」「退院後の継続した連携」などが挙がった.支援の工夫は「役割分担」「自宅生活の見通し」など,課題は「家族と支援者の認識の不一致」「家族の協力が不十分」「マンパワーや時間の不足」「地域連携の不足」「コロナ禍による障壁」などが挙がった.また非充実群の内,入院前・時は27.2%,入院中は23.2%,退院時・後は38.8%の施設が「支援をしていることはない」と回答し,「退院支援に関わってない」などの回答もみられた.
【考察】充実群は非充実群と比較して,多様な支援者らと連携を図っていることが明らかとなった.また充実群は,自宅生活を見据え,入院前から退院後まで継続した様々な支援を提供しているものの,家族や地域との協働,マンパワーや地域連携の不足などの課題が残っており,回答者が退院支援に苦渋している背景も伺えた.また退院支援の充実度と在院日数は関連しない可能性が示唆された.本研究において得られた新たな知見をもとに,認知症治療病棟における効果的な早期退院支援プログラムの構築に取り組んでいきたい.なお本実践は,JSPS科研費22K11265の助成を受けたものである.