第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-12] ポスター:高齢期 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-12-4] 事例を通し排尿ケアチームでの作業療法士の役割について考察する

曽根田 香, 信末 匡哉 (一般財団法人とちぎメディカルセンター とちぎメディカルセンターとちのき)

【序論】当院では排尿自立支援加算における排尿ケアチームとして,排尿自立支援委員会が活動している.2017年より排尿ケアチームに作業療法士が委員として加わり,週1回のラウンドとカンファレンス(以下CF)に参加している.今回,作業療法と並行し,排尿ケアチームの一員として関わった症例が排尿自立に至った経過を後方視的に振り返り,排尿ケアチームの中での作業療法士の役割について考察する.本発表に際し,当院倫理委員会の承諾を得ている.
【事例紹介】対象患者は,急性腎不全,脱水症で入院した80歳代の男性.急性期病院での加療後,リハビリテーション(以下リハビリ)目的で当院に転院した.家族が排泄自立を希望し,長期経過となることが予測されため療養病棟に転棟となった.入院前は息子2人と生活,ADLは自立していた.今回の発症により基本動作は全介助,Barthel Indexは0点と著明な低下をきたした.前病院より膀胱留置カテーテル(以下カテーテル)が挿入され,テープ止め紙おむつを着用していた.
【介入経過】自宅退院を目指し排泄自立を目標とした.起居動作が向上した入院3週目に,トイレでの排泄の意識づけと排泄時の下衣操作訓練を目的に,作業療法プログラムにトイレ誘導を追加した.下衣操作が上達し,便意の訴えが出てきたため入院5週目に医師にカテーテル抜去を打診し排尿自立支援委員会の介入が開始,入院6週目にカテーテルが抜去された.
抜去後は,尿閉なく経過したが排尿は概ねオムツ失禁であった.排便は身障者トイレを使用していた.作業療法中に,「(尿が)出そうって感じるけど,トイレに行く前に出ちゃう」との発言が聞かれたため,同週のCFにて発言を報告し,尿意を感じたらすぐトイレに移乗できるようポータブルトイレを設置した.入院7週目のCFでは,看護師より失禁量減少の報告があり,リハビリで歩行を進めていたため下着をパンツ型紙おむつに変更した.また,患者に歩行器を貸出しした所,病棟スタッフがトイレまで付き添い歩行する様子が見られるようになった.入院8週目には,歩行は見守りが必要だが,排泄動作は自立レベルとなった.CFでは看護師から昼夜ともに失禁はないとの報告が聞かれ,OTRが下着について聴取を行うと「入院する前は普通のパンツだった.もうオムツはいらないと思う.歩きにくい.」との発言があり翌週CFにて報告し布パンツへ移行,3週間後排尿自立と判断され,排尿自立支援委員会の介入が終了となった.
【考察】先行文献では,家族の自宅退院の条件として77%が「トイレに一人で行けるように」を挙げている.排泄の自立は,患者本人の尊厳に直結するだけでなく,介護者にとっても介護負担を軽減させるための重要な課題である.今回の症例に対し排尿自立支援委員会が介入しCFを毎週行った.作業療法士からは動作能力の変化や症例の発言を適時報告し,看護師からは失禁や残尿の状況などの報告を受けることができ,患者の状態を共有することができた.佐藤ら1)は,排尿自立支援を成功に導くポイントとして,成果の見える化を挙げている.当院においてもCFを通し,多職種が患者の排尿機能や動作の変化を感じ取り易くなったことが見える化として機能し,柔軟に排泄ケアを実施できたと考える.これにより,布パンツでの生活という元々のスタイルに至る事ができたと考える.
今回は排尿自立支援委員会に属した作業療法士の担当患者であったため,CFで円滑に情報を反映することができた.今後は,担当外の患者においてもCFで情報を反映できる体制の構築が課題であると考える.
1)佐藤理乃他.総合・一般病棟における排尿自立指導.uro-Lo27:144~151.2022.