[PJ-2-7] VRを用いたベクション刺激が静止立位にあたえる影響
【はじめに】脳卒中治療ガイドライン2021では,日常生活動作訓練にVRを用いることが推奨項目の中に含まれ,機器の入手が容易になってきたこともあり,VRはリハビリテーション領域でも大きく期待されるデバイスの一つにあげられる.しかし,その活用や可能性についてはまだエビデンスが少なく,臨床で安全かつ効果的に用いるためにもVRを使用状況下における人の反応や行動の理解を深めることは重要である.
【目的】本研究では,視覚誘導性自己運動感覚(べクション)を惹起するオプティックフロー刺激を見ているときの,健常若年者と高齢者の静止立位に対する影響について床反力計を用いて調査した.また,ベクションには周辺視野が関与すること,認知課題によって静止立位の動揺が大きくなるという報告から,ベクション刺激観察下における周辺視野と認知負荷の影響についても明らかにすることを目的とした.
【方法】本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て行った(18-Io-58-2).健常若年者(23名)と健常高齢者(18名)の計測を行った.被験者はヘッドマウントディスプレイを頭部に装着し,2つの床反力計に左右の足が乗るように静止立位を保持した.実験条件は,①一定時間ごとに速度変化する球体が,中央から外側へ拡散する映像を見る条件(通常),②外側の周辺視野に壁を映し出し,視野角を制限した映像を見る条件(視野角),③①の条件にFABの「Go-No Go」課題を行う(認知負荷)の3種類とした.3条件をそれぞれ30秒間,3試行ずつ行い,床反力の計測を行った.2つの床反力計のデータから合成CoPを求め,25秒間における合成CoPの左右(ML)ならびに前後(AP)の変動幅と,CoP移動の総軌跡長を求めた.
【結果】CoP変動は,各条件3試行のうち2試行の結果が得られた,若年者16名と高齢者15名のデータを解析対象とした.25秒間のCoP-MLとAPの変動幅の平均において反復測定二元配置分散分析をおこなった結果,ML,APともに被験者の主効果(若年者と高齢者)は有意であった(それぞれF=247.9, p<0.001, F=479.0, P<0.001)が,実験条件の主効果は有意ではなかった.CoP軌跡総移動距離の比較では,被験者の主効果が有意(F=301.0, P<0.001)で,加えて条件の主効果もみられ(F=4.6, P=0.014),高齢者における通常と視野角(P=0.022),認知負荷と視野角(P=0.007)の間で有意差がみられた.若年者においてサンプリングした25,000ポイントで反復測定一元配置分散分析を用いて3条件間の比較を行った結果,ベクション刺激が減速した後のおよそ13.0秒から13.6秒のおよそ0.6間において通常条件で大きくCoPが前方に移動し,他の2条件との間に有意差が見られた(F=3.3-4.5, P=0.019-0.049).
【考察】今回の結果から,条件に関わらず高齢者のCoP変動は若年者に比べて大きくなることが分かった.また,通常条件と認知負荷条件に比べ,視野角を制限した条件では変動が小さくなることが分かった.これは,ベクションを起こす周辺視野のオプティックフローを制限したことでベクションが弱くなったことが考えられる.今回の結果ではGo-No Go課題によるCoP変動への影響はみられず,認知負荷として課題が不十分であったことが考えられる.若年者におけるベクション刺激が減速した時のCoPの前方移動は,加速する映像で一時的に後方に移動した重心を前方に移動させ,その後に減速を感じるベクションに変化したことでCoPが大きく前方に移動したと考えられる.若年者は足関節戦略や股関節戦略を用いて外乱に対してリアルタイムに対応するが,高齢者は同時収縮によって関節を固定し,バランスの安定を図る,という姿勢制御の特性が異なることも要因として考えられる.
【目的】本研究では,視覚誘導性自己運動感覚(べクション)を惹起するオプティックフロー刺激を見ているときの,健常若年者と高齢者の静止立位に対する影響について床反力計を用いて調査した.また,ベクションには周辺視野が関与すること,認知課題によって静止立位の動揺が大きくなるという報告から,ベクション刺激観察下における周辺視野と認知負荷の影響についても明らかにすることを目的とした.
【方法】本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て行った(18-Io-58-2).健常若年者(23名)と健常高齢者(18名)の計測を行った.被験者はヘッドマウントディスプレイを頭部に装着し,2つの床反力計に左右の足が乗るように静止立位を保持した.実験条件は,①一定時間ごとに速度変化する球体が,中央から外側へ拡散する映像を見る条件(通常),②外側の周辺視野に壁を映し出し,視野角を制限した映像を見る条件(視野角),③①の条件にFABの「Go-No Go」課題を行う(認知負荷)の3種類とした.3条件をそれぞれ30秒間,3試行ずつ行い,床反力の計測を行った.2つの床反力計のデータから合成CoPを求め,25秒間における合成CoPの左右(ML)ならびに前後(AP)の変動幅と,CoP移動の総軌跡長を求めた.
【結果】CoP変動は,各条件3試行のうち2試行の結果が得られた,若年者16名と高齢者15名のデータを解析対象とした.25秒間のCoP-MLとAPの変動幅の平均において反復測定二元配置分散分析をおこなった結果,ML,APともに被験者の主効果(若年者と高齢者)は有意であった(それぞれF=247.9, p<0.001, F=479.0, P<0.001)が,実験条件の主効果は有意ではなかった.CoP軌跡総移動距離の比較では,被験者の主効果が有意(F=301.0, P<0.001)で,加えて条件の主効果もみられ(F=4.6, P=0.014),高齢者における通常と視野角(P=0.022),認知負荷と視野角(P=0.007)の間で有意差がみられた.若年者においてサンプリングした25,000ポイントで反復測定一元配置分散分析を用いて3条件間の比較を行った結果,ベクション刺激が減速した後のおよそ13.0秒から13.6秒のおよそ0.6間において通常条件で大きくCoPが前方に移動し,他の2条件との間に有意差が見られた(F=3.3-4.5, P=0.019-0.049).
【考察】今回の結果から,条件に関わらず高齢者のCoP変動は若年者に比べて大きくなることが分かった.また,通常条件と認知負荷条件に比べ,視野角を制限した条件では変動が小さくなることが分かった.これは,ベクションを起こす周辺視野のオプティックフローを制限したことでベクションが弱くなったことが考えられる.今回の結果ではGo-No Go課題によるCoP変動への影響はみられず,認知負荷として課題が不十分であったことが考えられる.若年者におけるベクション刺激が減速した時のCoPの前方移動は,加速する映像で一時的に後方に移動した重心を前方に移動させ,その後に減速を感じるベクションに変化したことでCoPが大きく前方に移動したと考えられる.若年者は足関節戦略や股関節戦略を用いて外乱に対してリアルタイムに対応するが,高齢者は同時収縮によって関節を固定し,バランスの安定を図る,という姿勢制御の特性が異なることも要因として考えられる.