第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-5] ポスター:高齢期 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-5-2] ライフヒストリーカルテ活用しその人らしいケアに活かした一事例

帯刀 麻衣 (特定医療法人社団春日会 黒木記念病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
今回,クライエントの文脈を病棟でのケアに活かすためのツールとしてライフヒストリーカルテ(以下,LC)を活用した実践について以下に報告する.
【事例紹介】
A氏80代女性.Ⅹ年-6年にレビー小体型認知症を呈したことを契機に長男夫婦と同居.徐々に幻聴や妄想の症状が強くなりⅩ年に施設入所するが2日後に転倒し右大腿骨転子部骨折を罹患.術後,当院回復期リハビリテーション病棟へ入院となる.
【初期評価】
1.面接
「人に会うのにこんなみっともない髪形で」としきりに手櫛で整えている.
2.観察(病室の私物の観察より)
化粧道具,アイロンのかかったズボンなどが充分に用意されていた.
3.家族からの情報(LCより)
父親は公務員.兄弟,夫は教員.自分の意見を言わず地域の目を気にして必死だった.
4検査・測定
MMSE:16点(減点:遅延再生,計算課題,見当識)
FIM:50点(運動FIM:23/認知FIM:27)
【経過】
 第一期(入院~1か月目)
LCの記載をご家族に依頼.LCの内容と初期評価から朝一番に介入し,更衣を行った後化粧をし作業療法室へ行くようにした. 
 第二期(2か月目~)
尿路感染を呈し発熱,併せて院内におけるCOVID-19の影響で自室隔離となりベッド上での生活が10日間続いた.その後幻覚,抑うつ症状の増悪により日常生活はほぼ全介助,常に独語をしている状態であった.幻聴や妄想への対応統一のために他職種にLCの内容を共有.全介助であるが私服への更衣を継続の協力を依頼.私服に着替え過ごすと落ち着いて塗り絵などの作業ができる日が増えた.
【結果】
MMSE:16→10点(見当識,遅延再生,計算課題)
FIM:50→48点(運動FIM:23→33点/認知FIM:27→15点)
他職種から「一生懸命やってきた人で家族の事が気になるんだろうね」などの意見が聞かれた.
Ⅵ.考察
A氏は「家族が迷惑をかけている.申しわけない」という旨の幻聴や妄想にとらわれていた.これはジェンダーバイアスが根強い時代に子育てや家事等を行ってきたことが一因と考えられた.このことから他者と過ごす環境では身だしなみを整えておくことで穏やかに過ごせるのではないかと考えた.更衣や整容に関しては他職種の協力も不可欠なため作業のもつ意味を知ってもらうことで,介助量が増大した後も継続したかかわりを保つことができた.入院中のA氏しか知らなければA氏の文脈を推察することもなくおざなりな関りになるおそれもある.そこで物語的リーズニングを他職種と共有し,その人らしいケアを行うためのツールとしてLCは有効であると考える.
【文献】
田中寛之,他:ライフヒストリーカルテの導入が医療介護職員の患者・利用者理解度に与えた影響.作業療法 38:405-415,201