[PJ-5-5] 骨折患者の機能的転帰に関連する入院時の要因
【はじめに】
我々は以前,骨折後の患者を対象に入院時の抑うつ症状がFunctional Independence Measure(FIM)利得を低下させると報告したが,FIM利得と関連がある入院時の変数については確認できていなかった.そこで今回,骨折後の患者を対象にFIM利得と関連がある入院時の変数について検討した.
【目的】
本研究は当院回復期リハビリテーション(リハ)病棟にリハ目的で入院した骨折患者のFIM利得と関連がある入院時の変数を検討することを目的とした.
【方法】
本研究は単施設後向き観察研究とした.対象は,2018年8月から2020年10月に6つの回復期リハ病棟のうち1つの病棟に入院し退院した骨折患者である.救急搬送となり転院となった者,データの欠損がある者は除外した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認を受け,個人情報の取り扱いに十分な配慮のもと実施した.また,本研究は診療記録のみを用いた研究のため研究対象者から直接同意を得ることを免除されたが,オプトアウトをし,拒否の機会を保障した.調査項目は,年齢,性別,骨折のタイプ,入院時Geriatric Depression Scale15(GDS15),入院時Body Mass Index(BMI),入院時Mini-Mental State Examination(MMSE),入退院時FIM, Charlson comorbidity index (CCI), Mini Nutritional Assessment Short Form (MNA-SF),エネルギー摂取量,抗うつ薬使用の有無,在院日数, 1日あたりの平均リハ量とした. 今回は,FIM利得に対し,入院時の変数を調整した重回帰分析を実施した.説明変数には,単変量解析でP<0.2の変数を投入した.統計解析はRを使用し,有意水準は5%とした.
【結果】
研究期間中の骨折患者は183名であり,除外基準に該当しなかった127名を本研究の対象とした.年齢の中央値は76.5歳(40.0-83.0),女性92名(72.4%),男性35名(27.6%),大腿骨骨折62名(48.8%),脊椎骨折43名(33.9%),他の骨折22名(17.3%)であった.入院時のBMIは22.7kg/m2(19.7-25.1),MMSEは20点(16.0-25.5),FIMは67.2±16.3点,CCIは1(0-2), MNA-SFは7点(3-9),GDS15は6点(3.0-10.0),抗うつ薬使用者は6名(4.7%)であった.在院日数は58.0日(41.5-73.0),1日あたりの平均リハ量は123.2分(114.1-138.5)だった.重回帰分析の結果,抗うつ薬使用(回帰係数推定値:-15.574,95%信頼区間:-27.206 to -3.941,P=0.009)と入院時MMSE(回帰係数推定値:0.816,95%信頼区間:0.306 to 1.326,P=0.002)がFIM利得と独立して関連していた.
【考察】
抗うつ薬使用と入院時MMSEが低い骨折患者はADLの改善度が低かった.本研究における入院時GDS15の中央値は6点であり,Morghen S. らの基準を参考にすると,本研究における対象者は抑うつ傾向の可能性がある.一方,抗うつ薬使用者は6名(4.7%)であった.先行研究において,老年期うつ病は臨床的に重要であるにも関わらず,診断され適切な治療を受けている患者は10%から20%に過ぎないと推定されている.本研究においても,抑うつ症状を有している者に対する治療が不十分であった可能性が考えられる.また,抗うつ薬使用者においても,十分な投薬量や種類を服薬していなかったかもしれない.その結果,うつ病特有の症状である低活動の改善が不十分で,ADLの改善が低かった可能性がある. また,先行研究において, 認知機能障害は股関節骨折後のリハ効果を低下させる要因と報告されている.股関節以外の骨折を含む骨折患者でも,入院時の認知機能障害はリハ効果を低下させる可能性が示唆された.以上のことから,骨折患者においても, 入院時の身体機能だけでなく抑うつや認知機能に焦点を当てた評価,介入が必要と考える.
今後は疼痛や鎮痛剤,病前ADLに関する指標を加えた前向き研究によってさらなる検証が必要と考えられた.
我々は以前,骨折後の患者を対象に入院時の抑うつ症状がFunctional Independence Measure(FIM)利得を低下させると報告したが,FIM利得と関連がある入院時の変数については確認できていなかった.そこで今回,骨折後の患者を対象にFIM利得と関連がある入院時の変数について検討した.
【目的】
本研究は当院回復期リハビリテーション(リハ)病棟にリハ目的で入院した骨折患者のFIM利得と関連がある入院時の変数を検討することを目的とした.
【方法】
本研究は単施設後向き観察研究とした.対象は,2018年8月から2020年10月に6つの回復期リハ病棟のうち1つの病棟に入院し退院した骨折患者である.救急搬送となり転院となった者,データの欠損がある者は除外した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認を受け,個人情報の取り扱いに十分な配慮のもと実施した.また,本研究は診療記録のみを用いた研究のため研究対象者から直接同意を得ることを免除されたが,オプトアウトをし,拒否の機会を保障した.調査項目は,年齢,性別,骨折のタイプ,入院時Geriatric Depression Scale15(GDS15),入院時Body Mass Index(BMI),入院時Mini-Mental State Examination(MMSE),入退院時FIM, Charlson comorbidity index (CCI), Mini Nutritional Assessment Short Form (MNA-SF),エネルギー摂取量,抗うつ薬使用の有無,在院日数, 1日あたりの平均リハ量とした. 今回は,FIM利得に対し,入院時の変数を調整した重回帰分析を実施した.説明変数には,単変量解析でP<0.2の変数を投入した.統計解析はRを使用し,有意水準は5%とした.
【結果】
研究期間中の骨折患者は183名であり,除外基準に該当しなかった127名を本研究の対象とした.年齢の中央値は76.5歳(40.0-83.0),女性92名(72.4%),男性35名(27.6%),大腿骨骨折62名(48.8%),脊椎骨折43名(33.9%),他の骨折22名(17.3%)であった.入院時のBMIは22.7kg/m2(19.7-25.1),MMSEは20点(16.0-25.5),FIMは67.2±16.3点,CCIは1(0-2), MNA-SFは7点(3-9),GDS15は6点(3.0-10.0),抗うつ薬使用者は6名(4.7%)であった.在院日数は58.0日(41.5-73.0),1日あたりの平均リハ量は123.2分(114.1-138.5)だった.重回帰分析の結果,抗うつ薬使用(回帰係数推定値:-15.574,95%信頼区間:-27.206 to -3.941,P=0.009)と入院時MMSE(回帰係数推定値:0.816,95%信頼区間:0.306 to 1.326,P=0.002)がFIM利得と独立して関連していた.
【考察】
抗うつ薬使用と入院時MMSEが低い骨折患者はADLの改善度が低かった.本研究における入院時GDS15の中央値は6点であり,Morghen S. らの基準を参考にすると,本研究における対象者は抑うつ傾向の可能性がある.一方,抗うつ薬使用者は6名(4.7%)であった.先行研究において,老年期うつ病は臨床的に重要であるにも関わらず,診断され適切な治療を受けている患者は10%から20%に過ぎないと推定されている.本研究においても,抑うつ症状を有している者に対する治療が不十分であった可能性が考えられる.また,抗うつ薬使用者においても,十分な投薬量や種類を服薬していなかったかもしれない.その結果,うつ病特有の症状である低活動の改善が不十分で,ADLの改善が低かった可能性がある. また,先行研究において, 認知機能障害は股関節骨折後のリハ効果を低下させる要因と報告されている.股関節以外の骨折を含む骨折患者でも,入院時の認知機能障害はリハ効果を低下させる可能性が示唆された.以上のことから,骨折患者においても, 入院時の身体機能だけでなく抑うつや認知機能に焦点を当てた評価,介入が必要と考える.
今後は疼痛や鎮痛剤,病前ADLに関する指標を加えた前向き研究によってさらなる検証が必要と考えられた.