第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-6] ポスター:高齢期 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-6-2] 施設高齢者の携帯電話所持状況とOTの役割

野田 和恵, 川上 基子 (神戸大学保健学研究科)

<はじめに> 施設高齢者がコロナ禍で施設外とのつながりが途絶え,心身にも影響があることが問題になっている.施設入所者が外部と連絡を取る手段として面会の他,公衆電話,手紙,携帯電話,職員を介して伝言などがある.そのうち携帯電話は外とのつながりに貢献していることが推察できる.では未所持者はどうなのであろうか.作業療法士(以下OT)がオンライン面会を支援するにあたり,高齢者施設入所者の携帯電話所持状況などを調査した.高齢者にとっての他者とのつながりを担保することはOTの役割の一つであり,入所高齢者の外とのつながりについての調査と考察を報告する.本研究は発表者所属施設の倫理委員会の承認を得ている.
<対象と方法> 2020.11~2021.1に特別養護老人ホームAの入所者109名のうち聞き取り可能であった46名に対し,以下の質問を対面で行った.1.施設に入所前・入所時・調査時に携帯電話の所持の有無,2.携帯電話未所持者には手放した理由,3.携帯電話所持者には連絡相手,使用頻度・状況について.
<結果> 1.携帯電話所持について,入所前に所持していたものが24名,入所時に所持していたものが14名,調査時に所持していたものが11名,未所持が35名であった.2.入所前から未所持の理由は「持たなくても困らないから」「家族とは連絡を取らないから」であった.入所前に使っていたが入所時に手放した理由は「家に置いてきた」が一番多く,「施設には必要ない」「携帯電話で話すと他の入所者に迷惑だから」「操作が難しい」「年だから」であった.入所時は使っていたが入所後に手放した理由は「契約が切れた」「携帯電話が壊れた」「操作が難しい」「難聴になり話すのが億劫」「指が震えてボタンが押せなくなった」であった.その一方で,本当は手放したくなかった,連絡の取りたい友人がいる,会えなくても声は聴きたい等の声もあった.3.連絡相手は回答者全員が家族で,使用頻度は毎日が最も多く,2~3日に1回,週に1回もあった.通話での利用が最も多いが,メールもあり,お互いの安否を確認していた.面会禁止中に家族と毎日連絡が取れたので寂しい思いはしなかった等の感想も聞かれた.また契約切れで通信不能だが時計として使用,操作がわからず職員にかけてもらって使用,コロナ禍になり家族がスマホを施設に預け職員が手伝いビデオ通話をしている人もいた.
<考察> 携帯電話所持者は面会禁止期間中も外とのつながりが保たれていた.未所持者は長期間,外とのつながりが困難であった.親しい人とのつながりは厳しい環境の中でも安心感が得られる一助となり,心身の健やかにも繋がる.また入所前からの携帯電話使用状況から,高齢者世代にも携帯電話は身近な通信手段であることが伺えた.しかし持っている携帯電話を手放して入所する者がおり,このことは入所前からの携帯電話を持つ目的や日々の使用状況が関係するのかもしれない.また入所自体が社会とのつながりがなくなるのだから携帯電話は必要ないと考える者や家族もいるのではないかと思われた.入所後に手放した理由は,身体・精神機能の低下によるものや経済的理由が多かったが,外とつながりたい入所者にとって,携帯電話は自ら発信し連絡ができる便利で魅力的なツールである.一方,携帯電話は個人の所有物のため,所持者と未所持者とでは外とのつながりにおおきな格差が生じてしまう.「外とのつながり」は生活の質・向上のためにも重要である.高齢者施設としての取り組みや入所者やその家族の意識改革も必要であり,OTもそれにかかわる必要がある.入所者が主体となって外とつながれるように取り組んでいきたい.