第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-6] ポスター:高齢期 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-6-3] 地域在住超高齢者におけるフレイル予防のための作業的戦略

坂上 真理1, 堀田 典2, 高島 理沙3 (1.札幌医科大学保健医療学部作業療法学科, 2.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 3.北海道大学大学院保健科学研究院リハビリテーション科学分野)

【緒言】わが国では超高齢社会の到来と平均寿命の延伸により,地域に在住する超高齢者を対象としたフレイル予防が益々重要となっている.フレイル予防では,社会参加や運動等を実践することが推奨され,これまでも支援方法やその効果が報告されている.一方,超高齢者は生物学的老化や身体的余力の低下が最も生じ易い年齢層であり(Ann Mclntyre, 2013),超高齢者が継続してフレイル予防に取り組むことを支援する上では,超高齢者の特性や当事者の視点を踏まえた支援策の検討が必要である.しかし,超高齢者自身が日常生活の中でフレイル予防にどのように取り組んでいるかは報告されていない.
【目的】地域在住超高齢者を対象に,作業的戦略として日常生活におけるフレイル予防の方法と工夫を質的研究により理解することを目的とした.
【方法】対象者は,北日本A市に在住する85歳以上の男女で,選定基準は①障害高齢者の日常生活自立度が自立であること,②要介護認定を受けていないこととした.対象者の募集は,老人福祉センターにて便宜的サンプリングにより行った.データ収集は,2022年8月から同年9月の期間に,基本事項(属性,健康状態,外出頻度等)と典型的な1日の過ごし方を質問紙で調査した後,1人につき1回30から40分の半構造化面接を行った.データ分析には,Step for Coding and Theorization(以下,SCAT)を用いた.各対象者の理論記述を生成した後,全対象者の理論記述を類似する内容ごとに分類し,その内容をカテゴリーとして命名した.本研究は筆頭著者の所属機関倫理委員会の承認(承認番号4-1-28)を得て,対象者には研究内容と倫理的配慮を説明し同意を得て実施した.
【結果】対象者は,6名(80代後半4名,90代前半2名.男女各3名)であった.「独居」と「子と同居」が各3名,全対象者は主観的健康感で「健康」と外出頻度は「週1回以上」と回答した.SCATで分析した結果,『他者を煩わせない自己の存続』と『コンパクトにして続けるフレイル対応』のカテゴリーが生成された.さらに,前者にはサブカテゴリーとして<容赦なく進む老い><お荷物化の懸念><できる限りの自助><老い予防の実行>が,後者には<作業の一石二鳥化><手に負える作業負荷><培った作業共同体の有効活用><日常生活のメリハリ化>が含まれた.また,対象者はフレイル予防のために定期開催される太極拳や“頭の体操”等の活動に参加する他,“家計簿つけ”等の習慣としていた作業や通うこと自体がフレイル予防となるように行い方を工夫していた.
【考察】本研究の対象者は,他者を煩わせる存在になることへの明確な危機感を持ち,それを動機にして,フレイル予防となる身体的,社会的,認知・心理的作業をバランスよく行える作業パターンを構築していた.こうした作業パターンが構築された背景には,対象者が作業に複数の意味を持たせていたことに加え,自分がコントロールできる範囲で作業を行いながら(Ingeborg Nilsson et al, 2012),作業の始まりと終わりを明確にしてメリハリのある生活を送る工夫があった.さらに,長年培ってきた共同体があることで,外出する動機や働きかけが得られていた.これには,他者を重んじる傾向が指摘されている日本の超高齢者の特徴(増井幸恵ほか,2012)が,フレイル予防の動機付けや,予防となる作業への継続的な参加にも影響していた可能性が考えられる.対象者が構築した作業パターンは長年の成果とも捉えられ,本研究の知見は超高齢者に留まらず前・後期高齢者がフレイル予防に継続して取り組むための支援策の検討に活用できると考える.