[PJ-6-5] 介護老人保健施設入所者の転倒と生活機能との関連
【はじめに】高齢者の転倒・転落は,骨折・外傷の原因となるだけでなく,それを契機として寝たきりや介護負担の増加,本人のQOL低下につながる.そのため,転倒予防につながるような作業療法を実践することが求められる.介護老人保健施設(以下老健)をはじめとする高齢者施設の入所者は身体機能だけではなく,認知機能の低下も伴っていることが多く,入所後間もない時期では居住環境の変化に戸惑い,不穏な状態が続くことで転倒のリスクも高いと考えられる.そのため,入所後早期の段階で,転倒リスクが高い者を把握する必要がある.本研究では,老健入所者を対象に入所後3か月以内での転倒発生につながるリスク要因について,老健入所時に行う評価項目を用いて検討した.
【方法】<対象者>研究協力施設である老健の入所者の内,本研究に同意の得られた74名を対象とした.この74名の内,入所時の評価項目において欠損のある者を除外した55名が最終的な対象者となった.<調査項目>基本情報として,年齢,性別,入所時の要介護度,身体機能に関する項目として,運動麻痺・筋力低下・関節可動域制限・感覚障害それぞれの有無,認知機能に関する項目として,長谷川式簡易知能スケール(以下HDS-R),日常生活動作に関する項目として,起き上がり,寝返り,端坐位保持,立ち上がり,移乗,食事,整容,トイレ,入浴,更衣の各動作について自立を3点,見守りを2点,介助を1点,全介助を0点として取り扱った.転倒に関する情報として,入所時3か月以内の転倒状況とした.データは,基本情報についてはカルテより,身体機能,認知機能,日常生活動作に関する項目については入所時に作成するリハビリテーション実施計画書より抽出した.転倒回数については研究協力施設の事故報告書より,抽出した.<統計解析>対象者を転倒経験の有無で「転倒経験あり群」「転倒経験なし群」の2群に分類した.その後,各項目について両群間の比較をおこない,p<0.05をもって有意差ありとした.<倫理的配慮>筆頭演者の所属先および研究協力施設の倫理審査を経て研究を行った.
【結果】対象者55名のうち,入所後3か月以内に転倒・転落をしたものは18名(32.7%)であった.そのうち,転倒・転落回数1回の者は13名,2回の者は4名,3回の者は1名であった.入所後3か月以内の転倒・転落件数の合計は24件あり,19件(79.2%)が自室で起こっていた.
入所時の各種評価結果の群間比較では,転倒経験なし群に比べ,転倒経験あり群のほうがHDS-R得点が有意に低く(p=0.040),移乗動作およびトイレ動作の自立度が有意に低かった(それぞれp=0.024,p=0.045).そのほかの項目については両群間で有意な差は認められなかった.
【考察】先行研究において,転倒・転落のリスク要因として,認知機能の低下や身体機能の低下が挙げられている.本研究においては認知機能については先行研究と同様であったが,身体機能面については先行研究と異なっていた.これは,本研究で用いた身体機能の指標が障害の有無のみとしており対象者の身体機能を明確に反映できなかった可能性がある.しかし,移乗やトイレといった動作の自立度と転倒経験との関連が示されたことより,動的な立位保持能力および排泄能力の自立度が転倒リスクを把握する上では重要であると推察される.以上より,入所後3か月以内の早期の段階においては,認知機能が低い者,動的な立位保持能力が低い者を対象に,動的な立位保持能力の改善や自室の環境改善などの対策を講じる必要があると考えられた.
【方法】<対象者>研究協力施設である老健の入所者の内,本研究に同意の得られた74名を対象とした.この74名の内,入所時の評価項目において欠損のある者を除外した55名が最終的な対象者となった.<調査項目>基本情報として,年齢,性別,入所時の要介護度,身体機能に関する項目として,運動麻痺・筋力低下・関節可動域制限・感覚障害それぞれの有無,認知機能に関する項目として,長谷川式簡易知能スケール(以下HDS-R),日常生活動作に関する項目として,起き上がり,寝返り,端坐位保持,立ち上がり,移乗,食事,整容,トイレ,入浴,更衣の各動作について自立を3点,見守りを2点,介助を1点,全介助を0点として取り扱った.転倒に関する情報として,入所時3か月以内の転倒状況とした.データは,基本情報についてはカルテより,身体機能,認知機能,日常生活動作に関する項目については入所時に作成するリハビリテーション実施計画書より抽出した.転倒回数については研究協力施設の事故報告書より,抽出した.<統計解析>対象者を転倒経験の有無で「転倒経験あり群」「転倒経験なし群」の2群に分類した.その後,各項目について両群間の比較をおこない,p<0.05をもって有意差ありとした.<倫理的配慮>筆頭演者の所属先および研究協力施設の倫理審査を経て研究を行った.
【結果】対象者55名のうち,入所後3か月以内に転倒・転落をしたものは18名(32.7%)であった.そのうち,転倒・転落回数1回の者は13名,2回の者は4名,3回の者は1名であった.入所後3か月以内の転倒・転落件数の合計は24件あり,19件(79.2%)が自室で起こっていた.
入所時の各種評価結果の群間比較では,転倒経験なし群に比べ,転倒経験あり群のほうがHDS-R得点が有意に低く(p=0.040),移乗動作およびトイレ動作の自立度が有意に低かった(それぞれp=0.024,p=0.045).そのほかの項目については両群間で有意な差は認められなかった.
【考察】先行研究において,転倒・転落のリスク要因として,認知機能の低下や身体機能の低下が挙げられている.本研究においては認知機能については先行研究と同様であったが,身体機能面については先行研究と異なっていた.これは,本研究で用いた身体機能の指標が障害の有無のみとしており対象者の身体機能を明確に反映できなかった可能性がある.しかし,移乗やトイレといった動作の自立度と転倒経験との関連が示されたことより,動的な立位保持能力および排泄能力の自立度が転倒リスクを把握する上では重要であると推察される.以上より,入所後3か月以内の早期の段階においては,認知機能が低い者,動的な立位保持能力が低い者を対象に,動的な立位保持能力の改善や自室の環境改善などの対策を講じる必要があると考えられた.