[PJ-7-1] 入院高齢患者のwell-beingと老年的超越の関連
【はじめに】
高齢者のWell-beingについて,活動の参加状況は前後期高齢者のWell-beingの充足に寄与するが,85歳以上の超高齢者はWellbeingに寄与しないことが報告されている.高齢者の中でも年齢が高いほど,身体的な側面と心理的な側面に乖離があることから,老年期の適応理論が注目されている.そして,その適応理論として老年的超越がある.老年的超越は,超高齢期の身体機能の低下に伴う自律性の喪失に適応した状態像とされる.地域在住の高齢者を対象とした研究では,虚弱な超高齢者において,老年的超越の高さがWell-beingの低下を緩衝する可能性があると示唆されている.一方,本邦では入院高齢者を対象とした研究はみられない.本研究の目的は入院高齢患者の老年的超越とWell-beingが関連するかを明らかにすることとする.
【方法】
対象:2022.12.1から2023.2.1に当院回復期病棟へ入院していた65歳以上の患者.重度の認知機能低下がある者は除外した.基本項目として,年齢,性別,MMSE,退院時FIM,退院先をカルテより調査した.老年的超越は老年的超越質問紙(以下,JGS-R)の下位因子である,「ありがたさ」・「おかげ」の認識,内向性,二元論からの脱却(以下,脱二元論),宗教もしくはスピリチュアルな態度,社会的自己からの脱却,基本的で生得的な肯定感,利他性,無為自然を使用した.Well-beingの指標として,改訂版PGCモーラルスケール11項目版(以下,PGC-MS)の下位因子である,心理的動揺のなさ,老いに対する態度,孤独感・不満足感のなさの3因子と,老年期うつ病評価尺度(以下,GDS-5)を使用した.JGS-RとPGC-MS,JGS-RとGDS5の相関係数を求める.Spearmanの順位相関係数を使用し,有意水準は5%とした.なお本研究は当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】
対象者は22名.平均年齢80.8歳,(±7.4歳).男7名,女15名,退院時FIM:106.6点(±15.8),MMSE:25.9(±3.0)点,退院先:自宅19名,老健3名.JGS-R:合計平均55.1点(±8.9),PGC-MS:平均7.4点(±2.0),GDS-5:1.6点(±1.2).相関係数に有意差がみられた項目は,JGS-R「内向性」とPGC-MS「心理的動揺のなさ」は相関係数0.53(P< 0.05),JGS-R「脱二元論」とPGC-MS「孤独感・不満足感のなさ」は相関係数-0.52(P< 0.05),JGS-R「脱二元論」とGDS-5は相関係数0.52(P< 0.05).その他の項目は有意差がみられなかった.
【考察】
JGS-R「内向性」とPGC-MS「心理的動揺のなさ」に正の相関がみられた.「内向性」の内容は「物理的に一人でいても,主観的には孤独感のない状態」とされる.先行研究でも,「内向性」が, Well-beingの低下を緩衝する可能性が指摘されている.以上から,入院高齢患者において,老年的超越の「内向性」とWell-beingが関連する可能性が示唆された.一方,「脱二元論」においては,Well-beingの指標にネガティブな相関関係がみられ,先行研究を支持しなかった.入院高齢患者の「脱二元論」やWell-beingは,地域在住の高齢者とは異なった関連をする可能性が示唆された.「脱二元論」の内容は,「善悪,正誤,生死,現在過去という二元論的な考え方から脱却すること」とされる.老年的超越を提唱したトーンスタムは,疾病の経験が老年的超越に影響を与えることを報告している.疾病の経験が,入院高齢者の老年的超越やWell-beingに影響を与えた可能性が予想されるが,本研究は相関係数を使用し,社会的因子を統制していないため,各因子の因果関係を考察できない.今後は,縦断的研究や質的研究により,入院高齢者の老年的超越とWell-beingの関連について,詳細を明らかにしていく必要があるだろう.
高齢者のWell-beingについて,活動の参加状況は前後期高齢者のWell-beingの充足に寄与するが,85歳以上の超高齢者はWellbeingに寄与しないことが報告されている.高齢者の中でも年齢が高いほど,身体的な側面と心理的な側面に乖離があることから,老年期の適応理論が注目されている.そして,その適応理論として老年的超越がある.老年的超越は,超高齢期の身体機能の低下に伴う自律性の喪失に適応した状態像とされる.地域在住の高齢者を対象とした研究では,虚弱な超高齢者において,老年的超越の高さがWell-beingの低下を緩衝する可能性があると示唆されている.一方,本邦では入院高齢者を対象とした研究はみられない.本研究の目的は入院高齢患者の老年的超越とWell-beingが関連するかを明らかにすることとする.
【方法】
対象:2022.12.1から2023.2.1に当院回復期病棟へ入院していた65歳以上の患者.重度の認知機能低下がある者は除外した.基本項目として,年齢,性別,MMSE,退院時FIM,退院先をカルテより調査した.老年的超越は老年的超越質問紙(以下,JGS-R)の下位因子である,「ありがたさ」・「おかげ」の認識,内向性,二元論からの脱却(以下,脱二元論),宗教もしくはスピリチュアルな態度,社会的自己からの脱却,基本的で生得的な肯定感,利他性,無為自然を使用した.Well-beingの指標として,改訂版PGCモーラルスケール11項目版(以下,PGC-MS)の下位因子である,心理的動揺のなさ,老いに対する態度,孤独感・不満足感のなさの3因子と,老年期うつ病評価尺度(以下,GDS-5)を使用した.JGS-RとPGC-MS,JGS-RとGDS5の相関係数を求める.Spearmanの順位相関係数を使用し,有意水準は5%とした.なお本研究は当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】
対象者は22名.平均年齢80.8歳,(±7.4歳).男7名,女15名,退院時FIM:106.6点(±15.8),MMSE:25.9(±3.0)点,退院先:自宅19名,老健3名.JGS-R:合計平均55.1点(±8.9),PGC-MS:平均7.4点(±2.0),GDS-5:1.6点(±1.2).相関係数に有意差がみられた項目は,JGS-R「内向性」とPGC-MS「心理的動揺のなさ」は相関係数0.53(P< 0.05),JGS-R「脱二元論」とPGC-MS「孤独感・不満足感のなさ」は相関係数-0.52(P< 0.05),JGS-R「脱二元論」とGDS-5は相関係数0.52(P< 0.05).その他の項目は有意差がみられなかった.
【考察】
JGS-R「内向性」とPGC-MS「心理的動揺のなさ」に正の相関がみられた.「内向性」の内容は「物理的に一人でいても,主観的には孤独感のない状態」とされる.先行研究でも,「内向性」が, Well-beingの低下を緩衝する可能性が指摘されている.以上から,入院高齢患者において,老年的超越の「内向性」とWell-beingが関連する可能性が示唆された.一方,「脱二元論」においては,Well-beingの指標にネガティブな相関関係がみられ,先行研究を支持しなかった.入院高齢患者の「脱二元論」やWell-beingは,地域在住の高齢者とは異なった関連をする可能性が示唆された.「脱二元論」の内容は,「善悪,正誤,生死,現在過去という二元論的な考え方から脱却すること」とされる.老年的超越を提唱したトーンスタムは,疾病の経験が老年的超越に影響を与えることを報告している.疾病の経験が,入院高齢者の老年的超越やWell-beingに影響を与えた可能性が予想されるが,本研究は相関係数を使用し,社会的因子を統制していないため,各因子の因果関係を考察できない.今後は,縦断的研究や質的研究により,入院高齢者の老年的超越とWell-beingの関連について,詳細を明らかにしていく必要があるだろう.