第57回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-7] ポスター:高齢期 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PJ-7-3] 関節リウマチの進行により余暇活動の喪失を経験した症例への代償手段による支援の一例

平井 翔也, 宇都宮 裕人, 榎本 光彦 (IMSグループ医療法人社団明芳会イムス横浜東戸塚総合リハビリテーション病院)

【はじめに】アメリカ家政学研究会より,余暇時間は高齢になるにつれ増加していく事に対し,自己能力は低下していく傾向が指摘されている.その為,身体機能障害があっても作業を維持する事ができる環境調整を行うことの重要性が考えられる.今回,関節リウマチ(以下,RA)の進行により余暇活動への取り組み,作業満足度の低下が認められた症例に対し,余暇時間の楽しみであった塗り絵の再開を目標に代償手段を用いた結果,塗り絵が再開し余暇時間における作業満足度の向上が認められた為,報告する.尚,今回の発表に際してご本人,ご家族様に同意は得ている.
【症例紹介】80歳代女性.右利き.診断名,肺炎後廃用症候群,既往,RA.Steinbrockerの分類基準stageⅢ・classⅣ.元々,ベッド上での生活を送っており,塗り絵は楽しみな活動として取り組まれていたが,痛み・変形の進行により困難となる.
【初期評価】ROM:手関節・第2~5指尺側偏位,第4指スワンネックあり.NRS:6.MMSE-J:10/30点.
ADOC:絵画・塗り絵の作業遂行度1,作業満足度1.「こんな手じゃ何もできない」と発言があり,塗り絵は実施していない状態.面接内では現状に全く満足していないという反面,「塗り絵をしている時が楽しい時間の一つだった」こと,「また出来るようになりたい」,という塗り絵に対する意味合いと意欲が聞かれた.
ASEA(活動への取り組み尺度):7/20点. 活動内容は塗り絵.活動の項目は1/8点,活動の促しに対し「できない」と拒み,開始困難.感情の項目は1/4点,笑顔は見られず,何もできない事への不安や寂しさの訴えが頻回に聞かれた.
【介入経過】➀自助具の導入.疼痛の緩和,関節保護を考慮し,手指の関節運動を伴わないカフベルトで固定する自助具を作製した.大関節運動での活動により作業中における手指の疼痛は軽減を認めた.
②塗り絵の環境調整.空間的調整:ギャッチアップ角度50度,テーブルは臍の下に設定し,大関節を用いた動作で代償できるように調整した.時間的調整:関節のこわばりを考慮し午前中はリウマチ体操,余暇活動は午後に設定した.また,過活動による疼痛出現を考慮し作業時間は30分と定めた.その都度症例に疼痛の有無,疲労等を確認し,時間調整を図った.
上記➀②の実施により,余暇時間における塗り絵の再開が可能となった.
【結果】塗り絵の設定:物品の準備をした上で,毎日,30分間,痛みの訴えなく作業が行えている.
ADOC:絵画・塗り絵の作業遂行度4,作業満足度4.「飾ってあるのを見ると綺麗にできてる」,「みんなが綺麗って言ってくれるからこれからも続けていきたい」と発言.
ASEA:14/20点.活動の項目は6/8点,活動を楽しみにしており,自ら開始する様子が見られた.感情の項目は3/4点,スタッフからの賞賛に「嬉しいよ.ありがとう.」と笑顔が増え,「まだやれることがあるかも」と,前向きな発言が聞かれた.
自助具の導入・環境調整により,身体機能における変化は認めないが作業獲得に至った.
【考察】代償手段を用いた残存機能を活かした実践を行うことは,作業の再獲得に繋がり,活動への取り組み方,作業満足度の改善を認めた.厚生労働白書より,高齢期を活き活きと過ごすためには,様々な環境を整備する必要があることを指摘している.適切な作業の評価に基づく代償手段の導入は,身体機能障害の度合いに依存することなく作業獲得できる可能性が示唆される.