第57回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-7] ポスター:高齢期 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PJ-7-5] 作業療法を拒否するクライエントの作業の可能化

坂本 勇太 (公益社団法人函館市医師会 函館市医師会病院リハビリテーション課)

【はじめに】作業療法(以下, OT)に拒否的なクライエント(以下,CL)に対し, マズローの欲求段階を踏まえてCL中心の可能化のカナダモデル(以下,CMCE)を用いた介入を行ったことで, 肯定的な心情の変容により「炊事」の可能化に至ったため報告する.
【倫理的配慮】本事例に対し, 本人に事例報告の趣旨を説明し, 書面にて同意を得た.
【事例紹介】 A氏, 80歳代女性. 夫と二人暮らしであり, 炊事などを行う主婦の役割を担っていた. X年Y月Z日に自宅のトイレ内で転倒し, 全身痛などの症状が改善せずZ+4日にA病院へ救急搬送となった. A病院にて誤嚥性肺炎と診断され, リハビリ開始となるが離床に拒否的であった. リハビリ継続のためZ+74日に当院へ転院し, 脱水症後に廃用症候群と診断され, 理学療法, 言語聴覚療法を開始した. 後にOTが処方され, 第8病日に介入開始となる.
【作業療法評価】FIMは54/126点(運動:23点, 認知:31点)であり, 病棟ではラジオを聴きながら臥床していた. COPMを用いて作業ニードを確認すると, ①炊事をする(重要度10/満足度5/遂行度5), ②自宅で歩けるようになる(10/1/1)ことが挙げられたが, 「炊事できない」とOTを拒否していた. マズローの欲求段階による評価を行うと, 入院という環境の変化により主婦の役割が剥奪され, 炊事ができない現実への直面によって病床に留まり, OTを拒否するといった安全欲求が不足していることが考えられた.
【介入の基本方針】マズローの欲求段階を踏まえてOTへの参加を促し,CMCEを用いて目標を共有,協働することで作業の可能化を図っていく.
【経過および結果】安全欲求を満たすため, A氏の好きな音楽を聴きに行くことを提案し, 実施すると,徐々に明るい表情が表出された. 介入2週目では料理の会話から「無水カレー」に興味を示した. 興味のある料理により動機を生成し, 介入の継続因子を入力するため, COPMを踏まえOT目標を「無水カレー作り」に設定し, 作業の可能化のために10の技能を全て用いた介入を開始した. 介入時には不安を軽減するため, 上手くできた動作に対し称賛による正のフィードバックを行う<コーチ>の技能や, 料理に入れたい食材, 調理実習の時間などをA氏と話し合って計画を企てる<協働>の技能を重視して関わった. 介入6週目では調理を実施し, 他職種が見守る中, 得意気に調理し無水カレーを完成することができた. 再評価時は, FIMは72/126点(運動:39点 認知:33点)と向上し, COPMは①に変化はないが「今は炊事できてると思う」と発言がみられた. ②は遂行度5, 満足度5と改善し「前よりは良い」と発言がみられた. 介入7週目で自宅退院となり「一生の思い出になった」と笑顔で話した. 退院後にA氏の近況を電話で聞くと,「なんとか炊事しています」と炊事の可能化が推察された.
【考察】衣笠らはCMCEを意識して関わることで, よりOTの専門性を活かした介入に繋がると述べており, CL中心のOTに有用なモデルであるが, 身体的不自由や心理面の不安定さの関与により,CLがOTに拒否的な態度を示すこともある. 尾崎らはOTに拒否的なCLを前向きにさせる方法として「CLを支える人間関係作りをする」「傾聴の姿勢でCLの想いや意志を尊重する」「馴染みのある失敗しない作業を導入する」「楽しく安心できるようにサポートをする」の4つの介入が上位4位までを構成している共通のアプローチであることを示唆し, 欲求の充足やCMCEを用いた介入がこれらのアプローチを内包していたため, A氏のOTへの参加を促進できたと考える. そのため, OTを拒否するCLの作業を可能化するためには, CLの欲求段階を踏まえた上で, CMCEを用いた介入が有用であることが示唆された.