第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-8] ポスター:高齢期 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-8-1] 自動車模擬運転時における視認応答潜時とブレーキ応答潜時との関係

佐賀里 昭, 岩波 潤, 務台 均, 佐藤 正彬, 小林 正義 (信州大学医学部保健学科)

【背景】
自動車運転は,社会参加を促進する重要な生活行為の一つであるが,運転再開可否の判断は極めて難しい.我々は自動車運転認知行動評価装置(特許第5366248号)を用いた模擬運転テストの開発を進めている.この模擬運転テストでは,ハンドル・ブレーキ等の操作反応に加え,手掌部発汗反応,前頭前野の脳血流動態等の計測装置を備えており,この度,新しく視線計測装置を搭載させた.本研究の目的は,危険場面におけるドライバーの視認応答潜時とブレーキ応答潜時の関連について検討することである.
【方法】
対象は18歳以上で運転免許を取得し,本人の自由意志に基づき文書による同意が得られた40名(平均年齢21.2±2.4歳,女性32名, 男性8名)とした.本研究は倫理委員会の了承を得た.実験は静音環境下で実施した.被験者には,自動車運転認知行動評価装置を操作してもらい,ハンドル・アクセル・ブレーキ等の操作信号を記録するとともに,発汗計(SKN-1000), 皮膚電位計(SPN-02), 光トポグラフィー(WOT-100), 視線計測装置(TalkEye Free)にて, 手掌部発汗(PSR),皮膚電位反射(SPR), 前頭前野Oxy-Hb濃度変化(Oxy-Hb), 視線データを測定した. PSRは発汗計測プローブを被験者の左拇指に, SPRは電極を左前腕部に, Oxy-Hbはプローブを前額部へそれぞれ装着した.視線計測に関しては, 装置を被験者の前方に設置し, 光源を角膜に照射したときに現れる反射像を用いて眼球の運動を測定し,サンプリング周波数は30Hzであった. 模擬運転課題は住宅地コースとし,突如人が飛び出してくる危険場面を解析した.なお,人の一部が出現した時点からの視線軌跡より, 危険対象を視認するまでの潜時(視認応答潜時)を算出した.本研究では視認応答潜時とブレーキ応答潜時データの相関をSpearman’s rank correlation coefficientを用いて解析した.
【結果】
危険場面における視認応答潜時の平均値は0.55±0.28sec,ブレーキ応答潜時の平均値は1.24±0.34secであった.なお,視認応答潜時とブレーキ応答潜時との間には有意な正相関を認めた(ρ=0.37,P<0.05).
【考察】
飛び出してきた人に対する視認応答潜時が短縮するほどブレーキ応答潜時も短縮する傾向がみられた.ドライバーの視覚認知が運転操作に先行すること(上坂2011)や,動体検知低下により危険対象への気づきが遅延すること(津留2007)からも,自動車運転における視認応答潜時は重要と考えられる.現行のドライビングシミュレータでは,ブレーキ応答は運転再開可否の指標として重要視されているが,視認応答潜時についてはほとんど使用されてこなかった.今回,視認応答潜時とブレーキ応答潜時に相関を認めたことから,模擬運転テストにおける視認応答潜時は,ブレーキ応答と同様に運転再開可否を判断するための指標の一つとなりえる可能性を示唆した.