第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-8] ポスター:高齢期 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-8-4] 回復期リハビリテーション病棟で人との「笑い合う」空間を創出した実践

木村 侑里南1, 長谷川 明嶺1,2, 神谷 美樹1, 丸山 祥1,3, 小林 法一3 (1.湘南慶育病院リハビリテーション部, 2.東京都立大学大学院, 3.東京都立大学)

【はじめに】色カルタとは,読み手が色にまつわる設問を出題し,参加者が100色のカードの中からふさわしいと感じたカードを選び取り,連想や体験についての交流を楽しむ遊びである.先行研究では,他者交流や認知機能等に対する変化を期待できるとされている.今回,入院生活に孤独感を感じていた事例にとって色カルタへの参加が人と「笑い合う」空間となり,役割行動や医療者との信頼関係において良好な変化へとつながったため報告する.本発表にあたり書面にて事例の同意を得た.
【事例紹介】対象は80歳代の男性,妻と次男との3人暮らし,大工職人であり受症直前まで現場監督として仕事に就いていた.右内包後脚の脳梗塞を発症し,15病日目に当院の回復期リハビリテーション病棟に転院した.初回面接では,「歩けるようになって家に帰りたい」「仕事に戻りたい」という希望や,過去に家族が集まる機会に料理を振る舞っていた話が聞かれた.FIM-M 58点,FIM-C27点,MMSE-J22/30点であり,ADL全般に見守りを必要とした.入院初期,当院の感染対策の為にご家族との交流の機会が制限される状況にあり,入院生活での不安や不満を家族に電話していた.本人からは「1人でいる感じがして悲しい」,人との「笑い合う」空間を求めている発言が聞かれた.そこで,通常の作業療法プログラムに加えて自己の表出や他者交流を促進する機会として,53病日目より色カルタを取り入れた.
【方法】3〜4名のグループで1回30〜40分を週1回,計10回実施した.リーダーは進行役と読み手を兼ねたOTR1名が担当した.成果指標として,人間作業モデルスクリーニングツール(MOHOST)を使用し病棟生活の様子を比較,意志質問紙(VQ)・コミュニケーション・交流技能評価(ACIS)を使用し活動中の様子を比較した.
【経過・結果】導入〜5週目では,身を乗り出して故郷や仕事の話を熱心に交わされ,「色カルタね,あれ面白いんだよ」と話した.MOHOSTは52点から78点となり,「たくさん人を巻き込んでやらないとな」と〈成功への期待〉を示した.生活場面では「話があるんですよ,聞いてください」と日頃の不安や不満をスタッフと〈会話〉するようになった.6〜10週目では,初参加の方に対して自発的に方法を教え〈関係性〉を築き,「(スタッフに)コーヒーを振る舞いたい」と〈興味〉〈役割〉を示した.実際に振る舞い,「喜んでもらえてよかった」と談笑された.最終日には「こういう遊びっていうのも,退院してうちに帰ったら夢の中の夢」と話した.VQでは〈他人を援助しようとする〉〈他人にかかわる〉,色カルタが〈特別であることを示す〉ことが観察された.ACISではエピソードを自発的に〈披露する〉,場面に合った表情を〈表現する〉様子が確認された.MMSE-Jは22/30点と変化なく,FIM-M 80点,FIM-C30点となり,屋内生活は概ね自立,社会的交流においても向上を認め,自宅退院に至った.
【考察】日本リハビリテーション病院・施設協会は地域リハビリテーションの定義に「その人らしくいきいきとした生活」を挙げ,活動指針として「発症当初からのサービス提供」を強調している.その人らしさとは個性であり一概に括れないが,本事例においては,長年の大工仕事や家族との団欒を大切にしていた生活背景から,人と「笑い合う」空間や所属感,役割意識をもつなどが考えられる.色カルタは本事例のその人らしさを取り戻すきっかけになった可能性があり.発症早期から「その人らしくいきいきとした生活の回復」すなわちリハビリテーションを促進する作業として機能したと考える.