第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-8] ポスター:高齢期 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-8-5] 集団療法の習慣化により客観的QOLの向上が成された一例

梶 貴博1, 村山 一朗2 (1.医療法人社団淡路平成会 ケアホーム東浦リハビリテーション科, 2.医療法人社団淡路平成会 東浦平成病院リハビリテーション科)

【はじめに】
当施設では利用者間の相互作用を活かす集団療法に力を入れている.今回,本症例は集団療法が習慣化したことにより,客観的QOL評価指標の向上がみられたため,以下に報告する.尚,本報告は本人,家族から同意を得ている.
【症例紹介】
X年Y月頃より物忘れ症状が進行し,物忘れ外来を受診.アルツハイマー型認知症と診断され薬物療法を開始.X+2年Y+8月独居継続困難となり当施設へ入所となる.性格は面倒見が良く,責任感が強い.
【作業療法評価】
Quality of Life Questionnaire for Dementia(以下QOL-D) 48.5点,Neuropsychiatric Inventory(以下NPI-Q) 8点,Aid for Decision-making in Occupation Choice (以下ADOC)を実施した際に友人との交流の項目に関し「したいけど近くにいないからできない.」と話した.介入当初,視線は泳ぎ,声は小さく震えていた.足を組む事が多いなど緊張感のわかる所見が多くみられた.スタッフが挨拶をしても頭を下げる程度の反応であり,OTRの指示を待って単独作業を行う事が多かった.また帰宅願望の訴えが強く一日に二,三回はカバンを持ってエレベーターの前に歩いていく様子が見られた.しかし,スタッフの声掛けに過度な拒否はみられなかった.
【統合と解釈】
本症例は,NPI-Q及び観察評価から帰宅願望による行動症状が出現し,施設内での社会生活継続が困難となる事が示唆された.集団療法によりNPIの下位項目である「BPSD重症度」と「介護負担度」は顕著な得点の減少傾向が確認されている事に加えて,QOL-Dの「対応困難行動のコントロール」において介入開始後1か月以降からフォローアップ終了までの時点まで著しい向上傾向が認められている.認知症高齢者に対する集団レクリエーション介入を実施する事によって,対象者におけるBPSDの改善または進行防止,さらにはQOLの改善につながる可能性が示された(坂本ら,2017)としている.この事に加え,本症例は他者交流を重要視しているというADOCの評価結果を元に集団療法を展開する事とした.集団療法を通して生活の中に安心感を得ることでQOL指標の向上と行動症状の減少を目指した.
【介入経過】
集団療法の導入は段階的に行った.はじめの一週間は塗り絵などの個別作業を展開し,その後はパラレル,小集団の順に作業活動を展開した.得意なはさみ使用やちぎり絵などの作業を実施した.小集団への参加開始当初は発言量も少なく,淡々と作業をこなしていたが,徐々に表情も柔らかくなった.コミュニケーション量も増加し,次の指示に耳を傾けるようになったことから自己主体感の創出が感じ取れた.声を出して笑うようになり,ユーモアな発言をするようになった.また,他の利用者に声かけをする役割を依頼していたが,徐々に自発的に声かけをする場面が増えた.
【結果】
QOL-D 48.5→85.5点,NPI-Q 8→3点,視線は定まり,以前みられていた声の小ささや震えはなくなった.足を組んでいる場面も減少し,スタッフの挨拶に返答するようにもなった. また,帰宅願望の訴えは大きく減少し,介入開始二週間後には周りの様子を伺う事があってもエレベーターの前に歩いていく様子は無くなった.
【考察】
集団療法への参加が習慣化された事で客観的QOL指標向上を成す事ができた.また,それにより二次的にBPSD(抑うつ,帰宅願望)の軽減をも成すことができた.集団療法は認知機能低下のある施設利用者様の日常生活においての安心感とQOLを維持向上する為に有用であると考える.