第57回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-9] ポスター:高齢期 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PJ-9-1] 回復期リハビリテーションの高齢者の退院先における習慣の構築に向けた作業療法

尾崎 友紀1, 渡部 雄太2 (1.医療法人 南労会 紀和病院, 2.大阪保健医療大学 保健医療学部リハビリテーション学科)

【序論と目的】第3腰椎圧迫骨折の受傷から,「何もできないから死にたい」と語る90歳代のAさんを担当した.人間作業モデルを理論的基盤にAさんの動機づけとなる料理活動を支援したところ,退院後は「違う施設に行っても友人を作りたい」と新たな環境における価値と興味が創発されて入院中の習慣に変化が生じた.本研究の目的は,再入所を見据えた生活習慣を構築できたことに関する検討である.なお,本報告に際して,本人と施設長に承認を得ている.
【事例紹介】受傷前は,独居で家族から介助を受けて生活をしていたが,介護負担の増加によりX年にB施設へ入所となった.入所6ヶ月後に第3腰椎圧迫骨折と診断を受け,当院に入院となり,入院後は再入所に拒否があった.改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)は25/30点,Functional Independence Measure(以下,FIM)は48/126点で食事以外に介助が必要で,移動も車椅子介助であった.生活のほとんどは,「この体では何もできないから死にたい」と語って臥床して過ごしており,日常生活活動(以下,ADL)も介助に依存していた.
【作業療法評価】入院時点の人間作業モデルスクリーニングツール(以下,MOHOST)は,37/96点で作業への動機づけと作業のパターンが4点であった.処理技能と運動技能は,それぞれ8点と9点で他の概念に比べて高値だが,能力を過少に評価し,ADLの介助依存が強かった.動機づけになる作業を明らかにするために認知症高齢者の絵カード評価法を実施すると,「食事の準備をする」をとても重要であるとした.施設へ入所してから,料理が行えてないことを語り,習慣にしていた作業の喪失は,作業への動機づけの低下と,処理技能と運動技能の主観的な認識と客観的なスコアに乖離が生じた.そこで,短期目標は,料理の従事から処理技能と運動技能の能力認識の乖離を軽減し,ADLの介助依存を軽減する,長期目標は,再入所後の生活に向けた役割を獲得できるとした.作業療法では,週3回の頻度で料理の内容をAさんと協業し,実践することにした.
【経過】Ⅰ期:料理に取り組むことをAさんに提案したが,骨折した体では自信がないとしていた.Aさんの不安を担保するため筆頭筆者と取り組むことを提案して同意を得た.料理は,病前に作り,食べたいと語りがあった素麺作りとした.作った素麺は,病棟スタッフに賞賛された.また,「自分のことはしないと」と前向きな発言が増えて排泄と整容が自立した.
Ⅱ期:退院後は,B施設と異なる施設の入所が決まったため,施設でも取り組める作業を考えた.編み物と折り紙を他者と交流しながら実施したところ,友人と一緒に作業を楽しむ趣味人の役割を獲得し,退院後の施設でも友人を作りたいと希望するようになった.
【結果】入院2ヶ月後のMOHOSTは66/96点で作業への動機づけと作業のパターンのスコアが大きく改善し,退院後を見据えた作業の選択が処理技能と運動技能の能力に応じて可能になった.FIMは78/126点となり,ADLの改善を認めた.HDS-Rは23/30点と低下した.
【考察】腰椎圧迫骨折の受傷により,作業への動機づけの低下だけでなく,処理技能と運動技能の能力認識を過少に捉える特徴があり,ADLの実施や退院後の生活も肯定的に見通せなくなっていた.作業への動機づけの低下に加えて主観的に処理技能と運動技能を過少に捉える特徴の高齢者には,クライアントの文脈に合わせた作業の実施と将来の環境に合わせた作業への従事により作業への動機づけだけでなく,主観的な処理技能と運動技能を改善する可能性があり,退院先を見据えた生活習慣の構築をクライアントの作業の自己選択によりできるようになるのかもしれない.