第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-1-2] 回復期病棟における環境調整からBPSD緩和に努めた一症例

大脊戸 はる, 江口 健次 (医療法人社団大谷会 島の病院おおたにリハビリテーション部 回復期病棟)

【はじめに】
近年,人口の高齢化に伴い回復期病棟では,認知症を合併した患者が増加している.認知症患者は行動・心理症状(以下,BPSD)を有しており,入院生活で症状が重篤化するケースが散見される(2008.林谷)そこで本報告では環境調整からBPSDの緩和に努め,介助負担を軽減し在宅復帰が行えたことから,環境調整に至る評価や具体的なアプローチを有用な手段の一つとして示す.なお,発表に関して家族に十分な説明の上同意を得ている.
【症例紹介】
右大腿骨頚部骨折診断にて人工骨頭置換術X年Y月Z日施行,Z日+24日後に当院へ転院.アルツハイマー型認知症70代女性.病前は夫と二人暮らし, ADL動作見守りレベル,主に日中は座位で過ごし外出機会は無かった.
【作業療法評価】
認知症により意思疎通が困難な為,行動観察評価を実施.意欲の指標(以下,VI)1点.認知関連行動アセスメント(以下,CBA)6点.認知症行動障害尺度(以下,DBD)32点.ADLはFIM計33点(運動26点/認知7点).日中臥床傾向(離床時間3~4時間/日).顕著な意欲低下を認め離床拒否があり,起居動作全介助.集団活動はBPSDにより参加困難.
【介入方法】
入院から2カ月間,生活環境の調整や人的環境の調整を行った.食事は集中できるように食堂から自室に変更.入浴は浴室環境への順応を目的に頻回な入浴訓練実施.整容・更衣・トイレは定期的な促しによる規則的な生活環境の提供.自宅環境への順応・評価を目的とした本人同行の退院前訪問指導を実施.その他に人的環境調整として,介助方法の統一化とスタッフ間の情報共有.対人順応能力向上を目的とした多様な人間と関わる環境作りを実施.
【結果】
VI=6点,CBA=14点,DBD=14点,FIM計48点(運動41点/認知7点).離床時間拡大(6~8時間/日).離床は拒否無く可能. BPSDが軽減したことで集団活動への参加がみられた.注意力散漫・混乱症状は残存したが,その他のBPSDはほぼ見られず,概ねADL動作軽介助まで改善できた.
【考察】
本症例のBPSDは入院による環境の変化が大きく影響していると考え,入院当初から環境調整を行った.食事環境は視覚・聴覚刺激を減らす事で,食事への集中を促し,所要時間を2時間から1時間に短縮できた.浴室環境への順応による不安感軽減や,規則的な生活習慣による安心感の獲得は協力動作を引き出し,介助量軽減に繋がったと考える.退院前訪問指導では,事前に自宅環境でBPSDが浮き彫りとなる場面を確認することが出来た.適切な介助指導や福祉用具導入で家族の介助負担を軽減し,よりスムーズに在宅支援が出来たと考える.人的環境調整では,介助方法を統一することで他者との関わりを容易にし,集団活動への参加を可能にしたと考える.又,退院後にデイサービスを利用することにより,外出機会の獲得に繋げることが出来た.BPSDの存在は,リハビリテーション効果を阻害することが示唆されている(2013.武田)今回,環境調整からBPSD緩和に対処し,指示理解に大幅な向上を認めた事で,有用なリハビリテーション介入が出来たと考える.