第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-1-6] 化粧を取り入れた介入によりアパシーの改善が認められた症例

小澤 舞子1, 伊藤 俊幸1, 高橋 秀寿2, 木川 浩志1 (1.飯能靖和病院リハビリテーション科, 2.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】
 アパシーはリハビリテーションの進行と回復の過程を妨げるといわれている.また,脳卒中後約36%の割合でみられるといわれ臨床上関わることも多い.今回,脳梗塞後アパシーを呈した症例に化粧を実施した事で改善を認めたため報告する.報告にあたり,口頭と書面での同意を得た.
【症例】
 70代,女性,右手利き,主婦.左片麻痺を自覚し救急搬送された.頭部MRIにて右散在性の脳梗塞及び内頚動脈閉塞を認め,血栓回収術,血管形成術を施行した. 1ヵ月後当院に転院となる.当院入院中に乳癌が発見され,入院後6カ月で自宅退院.手術施行され2週間後当院へ再入院となった.
【初回入院時神経学的所見】
 意識清明.運動麻痺(Br.stageⅠ-Ⅰ-Ⅱ),感覚障害,アパシー,全般性注意障害と左半側空間無視を認め,MMSE-J29/30,RCPM25/36,FAB12/18.FIMは44点であった.
【再入院時】
 運動麻痺(Br.stageⅡ-Ⅰ-Ⅱ),アパシーと全般性注意障害が残存し,FIM89点であった.
【介入方法】
 再入院時,「孫とショッピングモールに出かけたい」という希望が聴取できた.孫との外出を目的とし,家族への介助指導やADL訓練に併せて外出する際の習慣である化粧を行った.OT介入時に必要に応じて介助しながら行った.化粧落としはリハビリテーション時間外で設け,病棟の洗面所にてスキンケアも含め実施した.退院まで毎日実施した.
 意欲の評価として標準意欲評価表(CAS)を用い,介入前,2週後,退院時,退院後に実施,比較した.
【経過】
 初回介入後,久しぶりの化粧とのことだったが,「恥ずかしいけど嬉しい」と笑顔がみられた.経過と共に「これが楽しみなの」といった意欲的な発言が増え,化粧がきっかけとなり他患や病棟スタッフとのコミュニケーションも増えた.また,退院後は日常的に化粧を行えていないが髪を櫛でとかすことは毎日実施しているとのことだった.
 CASの経過は,面接法:初回22/60(37%),2週間後18/60(30%),退院時14/60(23%)退院後7/60(12%).質問紙法:初回29/99(29%),2週間後31/99(31%),退院時21/99(21%),退院後12/99(12%)と改善を認めた.また,FIMの整容,問題解決で1点向上した.
【考察】
 アパシーの非薬物療法では本人の特性に合わせた活動が推奨されている.また,「意味のある作業」を活用することでアパシーの改善につながる可能性も示唆されている.症例にとって化粧は習慣であり,楽しみである「意味のある作業」であったことがアパシーの改善に繋がったと考えられる.
 また,「日常的な習慣となっている化粧を,入院時にも行う機会を作ることは,社会性を取り戻すことに繋がる」との報告があり(作田妙子,2019),化粧を介して他者との交流が増え,社会性が向上したことでFIMの問題解決の得点が向上したと考えられた.
 本症例は短期間で2回入院し2回目の介入から化粧を行いアパシーの改善を認めた.アパシーはリハビリテーションの進行と回復を妨げるといわれており,初回入院時はアパシーにより回復が阻害されていた可能性も考えられた.アパシーを認める患者には早期から化粧など「意味のある作業」を取り入れることでリハビリテーションを効率的に行なえる可能性も考えられ,今後症例を増やし化粧の効果や適切な介入時期を検討していく必要がある.また,退院後も整髪は習慣化したが介助が必要な化粧は難しかったとの話も聞かれ,環境調整や道具の工夫も必要になると考えられた.