第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-1-7] アルツハイマー型認知症を呈した入院患者に対するリハビリテーション実施の有無に応じた身体活動量と光暴露量の関連について

内山 然1, 小貫 渉2, 川口 将史2, 高橋 真由子2, 久米 裕3 (1.中通総合病院, 2.中通リハビリテーション病院, 3.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻作業療法学講座)

【序論】認知症対象者への作業療法では,生活環境を踏まえた日常の活動と休息のリズム全体を捉える視点が重視されており,生活リズムの再構築は認知症に対する治療目標の1つに掲げられている.日常の活動と休息の状態に関する自己管理が難しい認知症対象者に対して,周囲による生活支援は心理・行動症状を軽減し,対象者本人の心身を良好な状態に保つために必要である.人の生活リズムを調整するためには,内因性の要素の他に身体活動,社会活動,光暴露,生活環境を含む外的因子が不可欠である.しかしながら,入院生活の環境下にある対象者を取り巻く生活リズムを調整する外的要素は未だ明らかにされていない.
【目的】本研究の目的は,当院療養病棟に入院するアルツハイマー型認知症対象者1例におけるリハビリテーション診療の有無に応じた身体活動量と外界刺激(光暴露量)の関連性を予備的に検証することである.
【方法】 対象はアルツハイマー型認知症を主病名とする当院療養病棟に入院する方(年齢:87歳,性別:男性,入院期間:87日)であった.同対象者の臨床評価として,Clinical Dementia Ratingが18点, the Japanese version of the Functional Independence Measure(FIM)™が24点(運動項目:15点,認知項目:9点),口から食べるバランスチャート(KTバランスチャート)が18点であった.日常の身体活動量(単位:Activity Count, AC)および白色光照度量(単位:lx)を計測するために,腕時計型活動量計測機器Actiwatch Spectrum plus (Philips Respironics社製)が対象者の非利き手手首に連続7日間装着された.データ収集が完了した後,7日間の計測期間のうちリハビリテーション診療を実施した4日間(作業療法:7単位,理学療法:6単位)[リハ実施期]と実施しなかった3日間[リハ未実施期]に分類し,リハビリテーション診療の有無に応じた1時間毎の身体活動量と白色光照度量のデータが集計された.統計学的検討として,各期内(リハ実施期またはリハ未実施期)における1時間毎の身体活動量(AC)と光照度量(lx)の関連性を調べるために,スピアマンの順位相関係数検定が実施された.統計処理にはIBM SPSS Statistics 27.0が使用され,統計学的有意水準は5%に設定された.倫理的配慮として,本研究は当院の研究倫理審査委員会にて承認されており,対象者の代理人に対して研究の説明文書を用いて口頭説明し同意を得た後,実施された.
【結果】リハ実施期における合計身体活動量(AC)/日と合計白色光照度量(lx)/日の中央値 [最小値,最大値]はそれぞれ8166 [5579, 11355]AC, 3469.7[2467, 6921] lxであり,未実施期では6569[4513, 9582] AC, 800.6 [583, 4245] lxであった.相関分析の結果より,リハ実施期では身体活動量と光照度量の間に有意な正の相関(rs=0.49,p < 0.001)が認められたが,リハ未実施期では有意な相関関係が認められなかった(p>0.05).
【考察】本研究の結果より,身体活動量と光暴露量の相関関係はリハ実施期のみに有意に観察された.身体活動量と白色光照度量の中央値[最小値,最大値]を比較すると,リハ実施期の数値はリハ未実施期と比べて高い傾向にあった.当院療養病棟に入院するアルツハイマー型認知症対象者1例において,リハビリテーション診療実施の有無は,日常の休息と活動のリズムを調整する外的因子の1つと指摘される光暴露量の変化にも影響を与えると推察された.しかしながら,本研究の結果は1事例による予備的知見に留まるため,リハ実施内容,日当たりや生活スペースを含むその他の外的調整因子を踏まえたさらなる検証が望まれる.