第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-10] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-10-3] 急性期地誌的障害と半側空間無視を呈した一症例が病棟生活自立に至った治療経過

吉村 正仙 (医療法人清仁会シミズ病院リハビリテーション科)

【はじめに】SAHにより右脳梁膨大部後部・後頭葉~頭頂葉に損傷あり,地誌的障害と環境中心座標の障害を認めベッドから離れると「どこに居るのかわからない.」と訴える症例を担当.
【基本情報】A氏:40代女性右利き 診断名:SAH 生活歴:夫と2人暮らし専業主婦 現病歴:頭痛・嘔気が改善しないため当院受診.頭蓋内出血あり緊急手術 ニーズ:自宅復帰
【作業療法初回評価】GCSE4V5M6合計15点.著明な麻痺なし.FIM:運動66点 認知32点.左同名半盲. VPTA:減点項目のみ記載:視覚体験の変化:2 形の分別:1 錯綜:2 図形の模写:4 状況図:2 異動分別:2 同時照合:1 日常生活:6 地誌見当識:4 白地図:6.BIT:85/146.WAISⅣ:言語理解IQ100 知覚推理IQ56 ワーキングメモリーIQ79 処理速度IQ54.CPT: A:25/30 B: 15/30.VPTAは形より複雑な錯綜図や立体,風景等の処理に低下と一度に見ることのできる範囲が変化しやすい特徴を認めた.CPTは環境中心座標の障害を認めた.残存機能は,色の識別,右半側の視知覚,深視野は比較的保たれ,言語理解や記憶障害を認めず.
【介入方針】当初,高次脳機能障害によりベッドから離れられなかったが,ADLは食事,更衣,排泄動作の一連動作で自立しており,地誌的障害が生活に大きく影響を与えていると評価,病棟内移動を獲得することで生活が自立できるよう方針を立てた.
【方法と経過】急性期病棟:発症~56病日 〈1~25病日目〉手術後コロナ感染判明し転院.〈26病日目〉初日,居室で迷う,左側障害物に気づかず.病棟・居室内環境の適応を図るため転室を行わないよう病棟NSと情報共有.リハビリスタッフの介入時は,左側からの感覚情報を入力,歩行時は左上肢でのT-cane操作とした.〈30病日目〉言語理解・記憶機能は保たれており,視覚刺激では「あれは赤だから女子トイレかな.形も近いし」と色の刺激が最も入力されやすく,視覚情報から場所の位置を覚えられるようになる.〈33病日目〉居室~リハビリ室間を道順エラー無く移動可能.居室内生活自立.〈37病日目〉卓上での注意課題は見落としなし.3次元では3.6m²が限度.〈40病日目〉リハビリ室内の物品配置を使用した自己・環境中心座標の訓練開始.〈42病日目〉棟内移動およびADL自立.
【結果】FIM:運動80点 認知33点.VPTA:68病日目実施:視覚体験の変化:2 形の分別:0 錯綜:0 図形の模写:3 状況図:0 異動分別:0 同時照合:0 日常生活:1 地誌見当識:3 白地図:0.BIT:132/146.CPT: A:26/30 B:19/30
【考察】当初左半側空間への認識を改善できるよう介入.症例は麻痺がなく,左半身からの知覚入力が行いやすく左側の空間認識が向上可能と考えた.左上肢での杖歩行や視覚入力の反腹で左半側への気付きが改善し視空間認知範囲は拡大した.言語理解・記憶機能は障害を認めなかったためランドマークを言語化して記憶定着を図り,最も保たれている色彩・図形の認識への視覚刺激を活用したが¹⁾,環境変化に位置関係が混乱しやすく棟内生活自立には至らず.配置物品を記憶し自身との2点間の位置関係を答える訓練を実施.行うと棟内での環境中心座標が把握できるようになり目標の達成となったと考える.
【説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき実施した. 対象者には,研究内容について口頭および書面にて説明を行い,同意書へ自筆による署名をもって研究協力の同意を得た.
【文献】1)揚戸薫,高橋伸佳,高杉潤,村山尊司:道順障害のリハビリテーション‐風景,道順を記述した言語メモの活用-.高次脳機能研究,第30巻第1号,2010, pp62~66.