[PK-11-1] 要介護高齢者の自覚的な機能障害と認知症罹患に対する不安との関係
【はじめに】認知症は発症初期より,記憶障害やInstrumental activities of daily living(IADL)障害が生じる.本邦は超高齢化社会にともなって認知症者が急増しており,認知症疾患が身近な病となっていることから,多くの高齢者が将来的に認知症に罹患するかもしれない不安を抱えている.認知症罹患に対して不安を抱く背景には,生活の中で感じる自分に対する小さな異変の存在を自覚した体験があることが推察される.認知症罹患に対する不安の背景にある自分の中の小さな気づきとは,生活上での記憶障害なのか,IADL障害なのかを明らかにしたいと考えた.そのためには,客観的な評価のみならず,自己評価と不安との関連を検討する必要がある.しかし,高齢者における自覚的な機能障害と認知症罹患に対する不安との関係については,先行研究において検討されていない.
【目的】要介護高齢者の認知症罹患に対する不安の有無と,生活上自覚する記憶障害・IADL障害との関係を明らかにする.
【方法】要介護高齢者37名(男性18名,女性19名,平均年齢85.7 ± 6.1歳,平均MMSE-J 20.0 ± 5.1点)を対象に日本版日常記憶チェックリスト(Everyday Memory Checklist;EMC)およびLawtonのIADL尺度を要介護高齢者および作業療法士(OT)の2者が同時に記入し,各項目と認知症罹患に対する不安の有無との関係を検討した.認知症罹患に対する不安については,自分自身が将来,認知症罹患するかもしれないことに対する不安をどの程度感じているかについて,「全く感じない」から「いつも感じる」の6件法で回答を求めた.認知症罹患に対する不安の有無で2群(認知症不安あり群,不安なし群)に分けた.本研究は所属施設の倫理審査会の承認を得て実施し,対象者と親族に研究目的・方法について説明し,書面で同意を得た.演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業などはない.
【結果】要介護高齢者である参加者の約4割(16名)で,認知症罹患に対する不安があると回答した.認知症罹患に対する不安の有無で分けた2群間(認知症不安あり群,不安なし群)では年齢,性別,MMSE-Jの得点,教育年数,FIM総得点で有意差はなかった. EMCの自己評価の得点は,2群間で有意差は認め(p = .012, φ = .41),OTによる評価の得点では有意差は示さなかった.自己評価によるEMCの下位項目における自覚的障害ありの出現者数は,「出来事が起こった日の失念」「前日の出来事の内容の失念」「注意がそれると自分が何をしていたか思い出せない」の3項目において,2群間で有意差を認めた.一方で,Lawton尺度では,自己評価(p = .711)およびOTによる評価(p = .094)の得点の両方で,有意差を認めなかった.
【結論】認知機能の程度や客観的な日常記憶障害の程度,ADL/IADLの自立度に関わらず,生活上で自覚する記憶障害を有している要介護高齢者は,認知症罹患に対する不安を抱きやすい.要介護高齢者の不安の背景には,日常生活上で自覚する記憶障害の存在がある可能性がある.具体的には,自分の行動のエピソードを失念した際に,認知症罹患に対して不安を抱く傾向がある.一方で,IADL障害を自覚していても,認知症罹患に対する不安にはつながっていなかった.介護者が要介護者の不安の背景を理解して関わることが,早期受診や不安の軽減などの支援に重要である.今後は症例数を増やして検討を重ねていきたい.
【目的】要介護高齢者の認知症罹患に対する不安の有無と,生活上自覚する記憶障害・IADL障害との関係を明らかにする.
【方法】要介護高齢者37名(男性18名,女性19名,平均年齢85.7 ± 6.1歳,平均MMSE-J 20.0 ± 5.1点)を対象に日本版日常記憶チェックリスト(Everyday Memory Checklist;EMC)およびLawtonのIADL尺度を要介護高齢者および作業療法士(OT)の2者が同時に記入し,各項目と認知症罹患に対する不安の有無との関係を検討した.認知症罹患に対する不安については,自分自身が将来,認知症罹患するかもしれないことに対する不安をどの程度感じているかについて,「全く感じない」から「いつも感じる」の6件法で回答を求めた.認知症罹患に対する不安の有無で2群(認知症不安あり群,不安なし群)に分けた.本研究は所属施設の倫理審査会の承認を得て実施し,対象者と親族に研究目的・方法について説明し,書面で同意を得た.演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業などはない.
【結果】要介護高齢者である参加者の約4割(16名)で,認知症罹患に対する不安があると回答した.認知症罹患に対する不安の有無で分けた2群間(認知症不安あり群,不安なし群)では年齢,性別,MMSE-Jの得点,教育年数,FIM総得点で有意差はなかった. EMCの自己評価の得点は,2群間で有意差は認め(p = .012, φ = .41),OTによる評価の得点では有意差は示さなかった.自己評価によるEMCの下位項目における自覚的障害ありの出現者数は,「出来事が起こった日の失念」「前日の出来事の内容の失念」「注意がそれると自分が何をしていたか思い出せない」の3項目において,2群間で有意差を認めた.一方で,Lawton尺度では,自己評価(p = .711)およびOTによる評価(p = .094)の得点の両方で,有意差を認めなかった.
【結論】認知機能の程度や客観的な日常記憶障害の程度,ADL/IADLの自立度に関わらず,生活上で自覚する記憶障害を有している要介護高齢者は,認知症罹患に対する不安を抱きやすい.要介護高齢者の不安の背景には,日常生活上で自覚する記憶障害の存在がある可能性がある.具体的には,自分の行動のエピソードを失念した際に,認知症罹患に対して不安を抱く傾向がある.一方で,IADL障害を自覚していても,認知症罹患に対する不安にはつながっていなかった.介護者が要介護者の不安の背景を理解して関わることが,早期受診や不安の軽減などの支援に重要である.今後は症例数を増やして検討を重ねていきたい.