第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-11] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PK-11-3] 食事時間の著しい延長を認めたbvFTD患者に対する食事環境と食具調整介入の一例

石丸 大貴1,2, 髙﨑 昭博2, 垰夲 大喜2, 吉山 顕次2, 池田 学2 (1.大阪大学医学部附属病院 医療技術部, 2.大阪大学大学院 精神医学教室)

【はじめに】
 認知症では多彩な食行動異常が生じることが知られている.食行動異常は,普段の摂食行動を妨げる要因となり身体的健康の悪化や介護負担の増大にも繋がるため,適切なケアが求められる.これまでに過食や早食いに対する実践報告は散見される一方で,一定割合の認知症者で食事時間の延長は確認されているも,その実践報告は乏しい.
 本報告では,食事時間の著しい延長を認めた行動障害型前頭側頭型認知症(behavioral variant Frontotemporal dementia; bvFTD)例に対して,食事環境と食具の調整により食事時間の短縮を図った介入について報告する.なお,発表に際して,本人・家族より口頭・書面にて同意を得た.
【症例提示】
 症例は,bvFTDの診断で,当院に症状精査・治療のため入院となった75歳の男性である.発症から4年の経過で,入院時のMini-Mental State Examinationは10/30点と低下していた.見当識障害,エピソード記憶障害,注意障害,言語障害(喚語困難・文の理解障害)などの認知機能障害に加え,常同行動,被影響性の亢進,自発性の低下など行動の問題も生じていた.そのためセルフケアの多くは妻の介助が必要だった.特に食事は2〜4時間を要する状況で,妻の介護負担が高く,評価・介入の必要性が高かった.
【介入・経過】
 入院時,嚥下機能の低下はなかったが,食物を口腔内に保持したまま咀嚼し続ける反応が見られた.また食事行為の開始・維持困難もあり,食事に2時間以上を要するなど,著しい食事時間の延長を認めていた.
 5分間に食物を口に運んだ回数と合計食事時間を効果指標として介入を進めた.
まず,環境刺激が食事への集中を妨げている可能性を考え,デイルームから自室へ食事環境を調整した.自身で食事を開始して,溜め込みも消退していたが,食べ物を口に運ぶ回数は少なく(5〜6回),品物を別の食器に移動させる・端に寄せるといった仕分け様の行為が頻回であった.自ら食事が開始できるようになった一方で,食事時間を短縮させることはできなかった.
 次に,複数の食器に注意が分散しないように,ワンプレート食器上に品物を小分けにした状態で提供する方法を実践した.食物を口に運ぶ回数はわずかに増加したが(7回),一部の品物にしか手をつけず,仕分け行為は持続していた.食物認知の障害を考慮して,呼称可能な品物のみを配膳した場合も,食物を口に運ぶ回数に改善はなかった(5回).
 仕分け様行為の分析では,肉と野菜など性状の異なるものごとに分ける傾向があった.そこで,仕分け様行為を減じるため,食器を仕切りのある弁当に変更して,性状の異なる食材を小分けにした状態で食事提供を試みた.食物を口に運ぶ回数は増加し(9〜10回),10〜20分で半量摂取が可能となった.しかし,時間が経つと,空いた区画に食物を移動させるといった仕分け様行為が再び出現していたため,区画に空きを作らぬように適宜品物を追加するように介助した.
 食嗜好の偏りのため,手をつけない品物には介助を要していたが,概ね40〜60分で食事を終えるようになった.物理的環境,食器の選定,食事提供方法,食嗜好の特徴をまとめたケア資料を家族に提供した.退院後1ヶ月後の聴取では,1.5時間程で食事を終えるようになっていた.
【まとめ】
 食事の開始困難,仕分け様行為・食嗜好の偏りが著しい食事時間の延長に影響していると考えられた.特に,環境刺激の調整,および仕切り付き弁当による食材ごとの小分け提示が食事への集中を高め,仕分け様行為を抑制することに有用であった.