第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-12] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-12-1] VRによるゲームアプリを用いた左半側視空間無視患者への作業療法介入

進藤 潤也, 大澤 美帆, 山岡 将, 川野辺 穣, 佐々木 正弘 (地方独立行政法人秋田県立病院機構 秋田県立循環器・脳脊髄センター機能訓練部)

【序論】半側視空間無視(以下USN)は神経機構として背側系と腹側系の二つの情報処理経路があるとされており,介入方法として探索課題等のトップダウンアプローチの他,受動的刺激によるボトムアップアプローチもいくつかの臨床報告が散見される.日本作業療法士協会版の脳卒中に対する作業療法ガイドラインでは,USN症例への視覚認知範囲拡大の手段としてVRを利用した訓練が挙げられているが,市販のゲームアプリを用いた介入報告は少なく,高い費用対効果で臨床への応用が期待できると考えた.【目的】左USNを認める症例に対しVRによるゲームアプリを用いた介入が,通常の作業療法介入と比較しUSN改善に効果があるかを検討することである.【対象】左USNを認めた右被殻出血の50歳代男性(症例1)及び右MCA領域脳梗塞の60歳代男性(症例2)で両症例とも右利き.左運動麻痺は症例1が重度,症例2が軽度だった.BIT通常検査得点は症例1が136点,症例2が111点.ADLは症例1が車椅子介助レベル,症例2は座位レベルの動作は自立していたが歩行を伴う動作で監視を要していた.【方法】シングルケースデザイン(A-B-A法)でA期はベース期としてUSNに対し通常の作業療法介入を,B期は介入期としてヘッドマウントディスプレイ機器(以下HD)を装着し,VRによるゲームアプリを用いた介入をそれぞれ2週間ずつ,計6週間行った.HDはMetaQuest2を,アプリは内容が理解しやすく,空間認知の意識付けや提示された刺激への操作が要求される,「はじめてのQuest2」のガンによるシューティングゲームを採用した.方法は介入期の作業療法時間内で前述したHD及びアプリによるゲームを約10分程度実施した.コントローラーの把持は症例1が右手のみで,症例2は両側に把持し実施した.ゲーム中の様子はタブレット端末にHD映像をミラーリングさせ,画面を通し確認した.姿勢は安全性を考慮し両症例とも椅子座位で実施した.各期前後でUSNの程度の指標としてBIT通常検査を,ADL場面での評価としてCatherine Bergego Scale(以下CBS)の観察評価を,注意機能の指標としてTrail Making Test(以下TMT)をそれぞれ測定した.倫理的配慮として本研究施行にあたり当センター倫理委員の承認を得て実施した(承認番号22-07).【結果】介入期当初は両症例ともVR空間内における視線は右優位であったが,徐々に左側へも視線を向ける様子が観察された.提示される刺激は正面での奥手前方向や左右上下等各方向へ移動するため,両症例ともシューティングに苦慮していたが,徐々にコツを掴み刺激に反応する様子を認めた.各期開始及び終了時の機能的指標の比較ではBIT通常検査得点,TMT-B,CBSで両症例ともベース期と比較し介入期後で向上を認めた.BIT通常検査では抹消課題での改善にばらつきを認めたが,症例1は線分2等分試験で,症例2は模写及び描画で向上を認めた.CBSでは両症例とも左側にいる人や物,左側にある所有物認知の項目で改善を認めた.【考察】森岡はUSNのリハビリテーション提供に際し,「空間認知課題」提供の重要性について述べている.本介入はVR空間内に提示される刺激をシューティングするという,受動的刺激に対して認知・判断・操作が要求される空間認知課題の一種であるといえる.本介入により左視空間への受動的反応が賦活されたことで,CBSにおいて対象認知の項目で改善を認めたと考えた.加えて次々と出現する新たな刺激への転換性注意も要求されるため,TMT-B改善にも影響したと考えられた.BIT下位項目での改善結果の違いは損傷部位によるUSN発生機序での差異とも考えられたが断定には至らず,今後症例数を重ねての検討が必要と思われた.