第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-12] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-12-2] 脳損傷者への就労支援

栗原 良子1,2, 長尾 徹3, 種村 留美3 (1.帝京平成大学健康メディカル学部作業療法学科, 2.神戸大学大学院保健学研究科博士後期課程, 3.神戸大学生命・医学系 保健学域)

【研究背景・目的】
脳血管障害や頭部外傷を労働年齢層で発症した場合,当事者の職業復帰はQOLや経済面から考えると重要なテーマである.作業療法士(以下OT)は,就労支援に適した職種であると考えられているが,その役割について共通理解の構築には至っていない.第56回当学会では,就労を目指す脳損傷者(以下,当事者)への「疾病・障害・アウェアネスへの支援」について報告した.本研究では,OTによる「職業生活への支援」を明らかにすることを目的とした.
【方法】
就労に向けた支援を行ったことのある,経験年数10年以上のOTへ質問紙および面接調査を実施した.対象者は,就労に関する学会での発表者や学術論文の投稿者,あるいは就労に携わっているOTとした.分析方法は事例-コードマトリックス(佐藤,2008)に準拠し,質的データ分析を行った.調査は,対象者の職場,対象者が指定する場所,或いはリモートにて質問紙への回答と個別での半構造化面接を実施した.実施期間は2020年2月~5月だった.質問紙調査では,実践したことのある脳損傷者に対する就労準備性支援の内容,その中で特に重要視している内容について,実践したことのある雇用側への支援内容について,就労定着支援実践の有無とその実践内容について回答してもらい,その後,半構造化面接にて,質問紙の回答を確認しながら,支援内容の詳細や具体的なエピソードについて個別に聴取した.本研究は,神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会より承認を得て実施した(承認番号:第710号).
【結果】
本研究での対象者は,医療機関(外来),地域活動支援センター,自立訓練事業所,就労移行支援事業所,就労継続支援事業所に勤務した経験のあるOT20名であった.職業生活への支援とは,食事量・睡眠時間・活動量・疲労度といった生活リズム,着替え・整容・通勤といったADLや経済的課題といった,1日の仕事以外の生活時間への支援を指す.OTは職業生活への支援として,「日常生活状況への意識化の促し」「スケジュールおよび環境の調整」「ADL・IADL訓練」「当事者・家族と話し合いや説明および助言」を行っていた.OTは,当事者に対して生活リズム,食事量など日常生活状況への意識化を促すこと, 時間や環境の調整を行うことで毎日の生活スケジュールを整える支援, そして直接的なADL・IADL訓練を行っていた.その際には,OTはクライエントあるいは家族より日常生活状況や考えを聴取し,事実に基づいて説明やアドバイスをすること,問題への解決策について個別あるいはグループ訓練を用いて一緒に考える取り組みを行っていた.
【考察】
高次脳機能障害により,発動性や認知機能の低下の影響などによって生活状況の乱れが生じることは,日常生活だけでなく,職業といった社会参加への大きな支障となる.OTは仕事を含めた生活全般への支援を就労支援の基盤としてとらえていたと考えられる.具体的には OTは1日24時間のクライエントの生活を見据えながら,自宅や施設内の活動内容を検討し,生活の安定に向けてまずは意識化を促すところから支援を行っていたと考えられる.