[PK-12-3] ゲームを用いた注意機能訓練が半側空間無視を呈する患者の立位保持に有効であった症例
<はじめに>
半側空間無視を呈した患者に対する従来のリハビリテーションは,健側の情報遮断,声かけによる患側への注意誘導等,患者の努力的な注意を要するものが多い.しかし単純な視覚情報からなるCGゲームを実施したところ,楽しんで遊ぶ機会を重ねる中で視空間認知の改善がみとめられた症例があった(前田 2022).本研究では急性期病院にて半側空間無視を呈し立位保持困難な患者に,同CGゲームを立位のままプレイする訓練を行ったところ,視空間認知および立位バランスが改善し立位保持時間が延長,移動能力の向上につながったため報告する.
<対象と方法>
心原性脳塞栓症により重度の左半側空間無視(CBS3)を呈した60代男性.左片麻痺(BRSⅣ.Ⅳ.Ⅲ),動作時プッシングあり,基本動作全介助,ADL全介助,JCS1-1,ぼんやりしているが現前のやりとり可. この症例に対し,発症13日目より週4日,車いす座位にて,視覚的に単純なCG野球盤ゲームを実施した.ゲームは正中位を垂直に進むボールをクリックにて打球し,画面左右35度の範囲に飛んでいったボールの位置で得点するというものである.次に発症21日目より24日目まで,長下肢装具を使用,補高テーブルに上肢を置いた立位で,上記ゲームをプレイする訓練を実施した.
<倫理的配慮>
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に本研究の趣旨説明を口頭及び文書で行い,同意を得た上で実施した.
<結果>
座位での声かけや視覚誘導では30秒未満であった正中位への注目時間は,ゲーム中に300-420秒に延長した.長下肢装具を使用した立位訓練では当初声掛けや鏡でフィードバックを行っていたが奏功せず左無視,右上下肢のプッシングあり,立位保持時間は10秒未満だった. そこで上記方法で立位をとりながらCG野球盤ゲームをプレイしたところ正中位保持し集中して取り組み,立位保持時間は4分だった.訓練3日目日,立位保持時間は10分に延長した.立位訓練5日目,ゲームせずとも立位保持可能となり,実用歩行の訓練に移行.回復期病院に転院となった.
<考察>
ヴィゴツキーは情動的行動について「生体と環境との相互作用の過程」であるとし,生体が努力的に著しく緊張して環境に順応しようとするとき,否定的感情が生じるとしている.重度の半側空間無視を呈した本症例は,現実世界では処理しきれない情報・刺激の中に置かれ,動作をするごとに失敗があり,ADL全般に介助を要していた.しかし視覚情報が限定されたゲーム空間では,優位性をもって環境に関わることができ,得点し,喜び,満足といった肯定的感情を抱くことができた.
Nick Chater(The Mind is Flat 2022)によれば「注意」とは解釈の過程であり,解釈が構築される元の「なまの素材」と構築過程そのものには意識的なアクセスはできないという.当初の立位訓練では,雑多な刺激の中から正中の鏡に映った自身の像にロックオンすることすら出来なかった.しかし繰り返しゲーム空間の中で正中を見つめホームラン目指してクリックする作業は,手持ちの感覚情報から解釈可能な自分自身が把握できる世界を作ることであった.高得点をねらって夢中で取り組んだ遊びこそが,ゲームを超えた現実世界での視空間認知向上・身体制御向上へと汎化する一要因となったのではないかと考察する.
半側空間無視を呈した患者に対する従来のリハビリテーションは,健側の情報遮断,声かけによる患側への注意誘導等,患者の努力的な注意を要するものが多い.しかし単純な視覚情報からなるCGゲームを実施したところ,楽しんで遊ぶ機会を重ねる中で視空間認知の改善がみとめられた症例があった(前田 2022).本研究では急性期病院にて半側空間無視を呈し立位保持困難な患者に,同CGゲームを立位のままプレイする訓練を行ったところ,視空間認知および立位バランスが改善し立位保持時間が延長,移動能力の向上につながったため報告する.
<対象と方法>
心原性脳塞栓症により重度の左半側空間無視(CBS3)を呈した60代男性.左片麻痺(BRSⅣ.Ⅳ.Ⅲ),動作時プッシングあり,基本動作全介助,ADL全介助,JCS1-1,ぼんやりしているが現前のやりとり可. この症例に対し,発症13日目より週4日,車いす座位にて,視覚的に単純なCG野球盤ゲームを実施した.ゲームは正中位を垂直に進むボールをクリックにて打球し,画面左右35度の範囲に飛んでいったボールの位置で得点するというものである.次に発症21日目より24日目まで,長下肢装具を使用,補高テーブルに上肢を置いた立位で,上記ゲームをプレイする訓練を実施した.
<倫理的配慮>
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に本研究の趣旨説明を口頭及び文書で行い,同意を得た上で実施した.
<結果>
座位での声かけや視覚誘導では30秒未満であった正中位への注目時間は,ゲーム中に300-420秒に延長した.長下肢装具を使用した立位訓練では当初声掛けや鏡でフィードバックを行っていたが奏功せず左無視,右上下肢のプッシングあり,立位保持時間は10秒未満だった. そこで上記方法で立位をとりながらCG野球盤ゲームをプレイしたところ正中位保持し集中して取り組み,立位保持時間は4分だった.訓練3日目日,立位保持時間は10分に延長した.立位訓練5日目,ゲームせずとも立位保持可能となり,実用歩行の訓練に移行.回復期病院に転院となった.
<考察>
ヴィゴツキーは情動的行動について「生体と環境との相互作用の過程」であるとし,生体が努力的に著しく緊張して環境に順応しようとするとき,否定的感情が生じるとしている.重度の半側空間無視を呈した本症例は,現実世界では処理しきれない情報・刺激の中に置かれ,動作をするごとに失敗があり,ADL全般に介助を要していた.しかし視覚情報が限定されたゲーム空間では,優位性をもって環境に関わることができ,得点し,喜び,満足といった肯定的感情を抱くことができた.
Nick Chater(The Mind is Flat 2022)によれば「注意」とは解釈の過程であり,解釈が構築される元の「なまの素材」と構築過程そのものには意識的なアクセスはできないという.当初の立位訓練では,雑多な刺激の中から正中の鏡に映った自身の像にロックオンすることすら出来なかった.しかし繰り返しゲーム空間の中で正中を見つめホームラン目指してクリックする作業は,手持ちの感覚情報から解釈可能な自分自身が把握できる世界を作ることであった.高得点をねらって夢中で取り組んだ遊びこそが,ゲームを超えた現実世界での視空間認知向上・身体制御向上へと汎化する一要因となったのではないかと考察する.