[PK-12-5] 身体意識の変容を認めた急性期脳梗塞患者に対して,早期から麻痺肢の作業参加を促進した一例
【はじめに】
身体意識は運動主体感(この運動は私が制御している)や身体所有感(この身体は自分のものである)により構成されている(Gallagher,2000).脳卒中後に起こる身体意識の変容は運動制御やモチベーションなどに重要な役割を果たすと考えられている.
今回,脳梗塞左片麻痺発症後より半側身体の無視・関心の低下を認めた対象者に対して,早期より麻痺肢参加を促す介入を行った.結果,半側身体に対する言動の変化を認め,運動制御やADLの改善に至った一例を報告する.本報告は対象者より同意を得て実施した.
【対象】
80歳代男性,右利き,病前ADL/IADL自立.右尾状核頭,島回,前頭葉,頭頂葉に心原性脳塞栓症を生じ,軽度意識障害,左重度運動/感覚麻痺,半側身体失認,半側空間無視を認めた.第4病日より24回の介入実施.JCSⅠ-2,FIM-運動項目:22/91点, BRS:上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅱ,Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)上肢:2/66点,左上下肢の深部・表在覚ともに重度鈍麻,Catherine Bergego Scale-観察(以下CBS観察):13/30点,HDS-R:29/30点.左上下肢を存在しないかのように振る舞う,「自分の身体だと思うが,そうでない気もする」と語った.対象者は日常的にSNSを利用して家族や趣味と連絡をとる習慣があった.
【介入方法】
早期からADLで麻痺肢使用頻度を増やして学習性不使用の是正,運動イメージの補足,麻痺肢に向ける身体特異性注意の低下防止を基本的な介入方針とした.身体意識の変化については対象者の言動を注視し診療録へ記載した.①非麻痺側上肢による麻痺肢への能動的な刺激入力②麻痺側上肢参加のADL練習③麻痺肢単関節運動④長・短下肢装具併用下の歩行・ADL練習⑤麻痺肢随意運動の動画撮影と,模倣運動⑥家族・友人へ⑤の共有支援⑦看護師と①~⑥の共有と病棟内での支援依頼.
【経過・結果】
第4~20病日までは安静度制限に従い,病棟内にて離床,ADL練習,麻痺肢の意識化を促す集中的な介入を実施.第21病日よりリハビリ室へ出棟,本人提案で屋外での車椅子姿を写真撮影し,携帯端末の入力支援を行いながら家族・友人と共有.第24病日より麻痺側上肢近位部の随意運動が出現するも,「自分は腕を動かしていないと思う」「前は偶然動いたんだ」と運動主体感の低下を認めた.反響の大きかった周囲との動画共有について本人と相談し,練習風景や麻痺肢の動きをほぼ毎日動画で共有.第30病日には「少し動くね」「肩や腕は良くなった」と随意運動への認識が改善された.上肢機能は近位部中心に改善,第32病日より看護師と装具なし介助歩行でトイレ誘導が可能となり,翌日転院となった.意識清明,FIM-運動項目:44/91点,BRS:上肢Ⅲ手指Ⅰ下肢Ⅳ,FMA上肢:14/66点,左上下肢の深部・表在覚ともに中等度鈍麻,CBS観察:2/30点
【考察】
脳梗塞発症後に身体意識の変容を認めた対象者に,早期より麻痺肢の作業参加を促し,意識化させる介入を実施した.麻痺肢の随意運動出現とともに増加した自発的な運動の試行回数増加と結果の回帰が運動主体感向上に,また繰り返しの運動で得られた視知覚の時・空間的一致が身体所有感改善に寄与したのではないかと考える.加えて家族・友人とのSNSによる動画共有で得られた激励や馴染みある言葉は麻痺肢使用の動機を強く惹起させ,メッセージ返信過程における自分や作業に関する言語化が自己身体への気づきを促進した可能性が示唆された.
身体意識は運動主体感(この運動は私が制御している)や身体所有感(この身体は自分のものである)により構成されている(Gallagher,2000).脳卒中後に起こる身体意識の変容は運動制御やモチベーションなどに重要な役割を果たすと考えられている.
今回,脳梗塞左片麻痺発症後より半側身体の無視・関心の低下を認めた対象者に対して,早期より麻痺肢参加を促す介入を行った.結果,半側身体に対する言動の変化を認め,運動制御やADLの改善に至った一例を報告する.本報告は対象者より同意を得て実施した.
【対象】
80歳代男性,右利き,病前ADL/IADL自立.右尾状核頭,島回,前頭葉,頭頂葉に心原性脳塞栓症を生じ,軽度意識障害,左重度運動/感覚麻痺,半側身体失認,半側空間無視を認めた.第4病日より24回の介入実施.JCSⅠ-2,FIM-運動項目:22/91点, BRS:上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅱ,Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)上肢:2/66点,左上下肢の深部・表在覚ともに重度鈍麻,Catherine Bergego Scale-観察(以下CBS観察):13/30点,HDS-R:29/30点.左上下肢を存在しないかのように振る舞う,「自分の身体だと思うが,そうでない気もする」と語った.対象者は日常的にSNSを利用して家族や趣味と連絡をとる習慣があった.
【介入方法】
早期からADLで麻痺肢使用頻度を増やして学習性不使用の是正,運動イメージの補足,麻痺肢に向ける身体特異性注意の低下防止を基本的な介入方針とした.身体意識の変化については対象者の言動を注視し診療録へ記載した.①非麻痺側上肢による麻痺肢への能動的な刺激入力②麻痺側上肢参加のADL練習③麻痺肢単関節運動④長・短下肢装具併用下の歩行・ADL練習⑤麻痺肢随意運動の動画撮影と,模倣運動⑥家族・友人へ⑤の共有支援⑦看護師と①~⑥の共有と病棟内での支援依頼.
【経過・結果】
第4~20病日までは安静度制限に従い,病棟内にて離床,ADL練習,麻痺肢の意識化を促す集中的な介入を実施.第21病日よりリハビリ室へ出棟,本人提案で屋外での車椅子姿を写真撮影し,携帯端末の入力支援を行いながら家族・友人と共有.第24病日より麻痺側上肢近位部の随意運動が出現するも,「自分は腕を動かしていないと思う」「前は偶然動いたんだ」と運動主体感の低下を認めた.反響の大きかった周囲との動画共有について本人と相談し,練習風景や麻痺肢の動きをほぼ毎日動画で共有.第30病日には「少し動くね」「肩や腕は良くなった」と随意運動への認識が改善された.上肢機能は近位部中心に改善,第32病日より看護師と装具なし介助歩行でトイレ誘導が可能となり,翌日転院となった.意識清明,FIM-運動項目:44/91点,BRS:上肢Ⅲ手指Ⅰ下肢Ⅳ,FMA上肢:14/66点,左上下肢の深部・表在覚ともに中等度鈍麻,CBS観察:2/30点
【考察】
脳梗塞発症後に身体意識の変容を認めた対象者に,早期より麻痺肢の作業参加を促し,意識化させる介入を実施した.麻痺肢の随意運動出現とともに増加した自発的な運動の試行回数増加と結果の回帰が運動主体感向上に,また繰り返しの運動で得られた視知覚の時・空間的一致が身体所有感改善に寄与したのではないかと考える.加えて家族・友人とのSNSによる動画共有で得られた激励や馴染みある言葉は麻痺肢使用の動機を強く惹起させ,メッセージ返信過程における自分や作業に関する言語化が自己身体への気づきを促進した可能性が示唆された.