第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-12] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 12

Sat. Nov 11, 2023 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PK-12-6] 軽度認知障害とアルツハイマー型認知症における嗅覚同定能と抑うつの関係

吉武 将司1, 前島 悦子2, 大沢 愛子3, 前島 伸一郎3 (1.金城大学医療健康学部, 2.大阪体育大学大学院, 3.国立長寿医療研究センターリハビリテーション科)

【はじめに】高齢化に伴い認知症や軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)の人の数は年々増加しており,早期発見,早期対応が重要視されている.アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)では,しばしば抑うつなどの精神症状がみられる.また,においの経路に含まれる嗅内皮質が早期から障害されることが知られており,嗅覚同定能はADを早期に発見する方法の一つとして注目されている.嗅内皮質は海馬や扁桃体との神経連絡が豊富であり,記憶に関するPapez回路と情動や感情に関係するYakovlev回路に関わるため,嗅覚は記憶や情動と結びつきやすい.これまでにMCIで嗅覚同定能の低下と記憶の低下に関連を認めたという報告はあるが,情動に関わる抑うつと嗅覚同定能との関係に対する報告はみられない.そこで,本研究では,MCIおよびADにおける抑うつと嗅覚同定能との関係を検討した.
【対象】MCI12名(MCI群),AD17名(AD群),MCIや認知症の診断歴がなくJapanese version of Montreal Cognitive Assessment (MoCA-J)が26点以上であった在宅高齢者30名(対照群)を対象とした.MCI群は全てamnestic MCIで,年齢は68〜85歳(平均±SD; 78.9±6.0 歳),教育歴は12.5±2.2年,AD 群の年齢は62〜85歳(77.6±6.3 歳),教育歴は11.9±1.8 年,対照群の年齢は65〜82 歳(72.8±4.1 歳),教育歴は13.3±1.7年であった.
【方法】Odor Stick Identification Test for Japanese (OSIT-J)を用いた嗅覚同定能の評価とGeriatric Depression Scale-15 (GDS-15)を用いた抑うつの評価を行い,OSIT-JとGDS-15の得点との関係を検討した.
【結果】嗅覚同定能の低下はMCI群の83%,AD群の88%,対照群の20%に認められた.OSIT-Jの合計得点はMCI群,AD群,対照群でそれぞれ4.4±3.4点,3.4±2.3点,9.4±2.4点であり,MCI 群,AD 群と対照群との間に有意な差を認めた(いずれも,p<0.01).またMCI群の42%,AD群の24%,対照群の27%に抑うつ傾向を認め,GDS-15の得点はMCI群,AD群,対照群でそれぞれ3.4±3.9点,3.0±2.4点,3.2±2.9点であり,各群に有意差は認めなかった.OSIT-Jの得点とGDS-15の得点に関し,AD群と対照群では有意な相関は認めなかった(AD群 : rs=-0.16, p=0.53,対照群: rs=-0.18, p=0.31)が,MCI群では有意な負の相関を認めた(rs=-0.79, p<0.01).
【考察】MCIにおいては嗅覚同定能と抑うつが関連しており,嗅覚同定能が低下している者は抑うつを合併している可能性がある.この理由として,嗅覚同定能の低下により,扁桃体への刺激量が減少して感情が平板化したり,食事の風味を感じにくく,Quality of life (QOL)が低下することで気分低下が生じ,抑うつにつながることが推察された.一方,ADでは嗅覚同定能と抑うつに有意な関連はなかった.この原因としては,忘れたことを忘れてしまうというADの特性から,病識に乏しく,抑うつを持つ人が少なかったことに加え,OSIT-Jの得点が極めて低い者が多く,床効果を示した可能性が考えられた.ただし,いずれも被験者数が少なく,今後,症例数を増やし再検討をする必要がある.
【結論】MCIにおける嗅覚同定能の低下と抑うつの関連が示された.