第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

Fri. Nov 10, 2023 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PK-2-3] 注意障害に対し仮想現実(VR)技術を用いたリハビリテーションが奏功した1 例

吉村 匡史, 坂口 裕美, 兵道 哲彦 (株式会社麻生飯塚病院リハビリテーション部)

【はじめに】
 脳卒中における高次脳機能障害は,多彩な症状が重複し,環境や課題難易度を工夫しても治療に難渋する事が多い.一方,この分野における仮想現実(virtual reality:VR)技術を用いた治療効果の報告もあり,応用が期待されている.今回,注意障害を呈したくも膜下出血患者に対し,VR を使用した介入により,ADLが向上した症例を経験したので報告する.なお,今回の報告に関して,患者本人と家族から同意を得ている.
【症例紹介】
 40歳代男性.右利き.ADL自立.職業は介護福祉士.自宅の浴槽にもたれた本人を妻が発見し救急搬送.CTにてくも膜下出血(WFNS GradeⅤ)診断.14病日までSpasm管理.CTで前交通動脈に破裂点と思われる脳動脈瘤あり,20病日目にコイル塞栓術施行.21病日目よりOT開始.
【作業療法評価(21病日~)】
 GCSはE4.V2.M5.神経学的所見は,明らかな運動麻痺無し.発症15日目SIAS:25点.意思疎通は,従命に応じる事や状況理解は不良で,発語は殆ど認めず.また,動作中の注意散漫,自発性低下あり,机上での神経心理学的検査は実施困難であった.観察評価として,脳外傷後注意障害患者の行動スケール(Moss Attention Rating Scale(MARS))施行し43点.ADLは,FIMスコア22点(運動項目17点,認知項目5点)で,食事3点,上衣更衣動作1点,トイレ動作3点.全体像として,動作全般に誘導が必須だが,運動が開始出来れば,動作が惹起しやすい場面が見られた. 目標を「自分から運動を発信出来る」とし,病棟ADL自立を目指した.
【作業療法経過(21病日~)】
 入院中,作業療法介入を40~60分,週5~6回の頻度で3週間実施した.刺激軽減下での機能訓練や課題志向型訓練を行うも十分な改善は得られず,2週目より,注意喚起や非言語的な要素がある訓練として,mediVR 社製の「mediVRカグラ」を使用したVR介入を追加.1回20分程度,週2~3回を2週間付加し,転院まで実施した.訓練課題は,椅子座位にて,前方の標的オブジェクトを見て触るような上肢リーチ運動を左右交互に促した.開始当初は,標的への注視や動作が起きず,言語的補助や動作誘導,標的の大きさなど認知付加の段階付けを行い,成功体験を与えた.徐々に標的への視認や追視,リーチが見られ,VR介入2週目には,斜めや側方の標的にも反応出来るようになった.最終的には視覚処理の速度が向上し,誘導がなくても反応が増え,課題に集中して取り組めた.転院時は,病棟での食事や排泄は自立し,日中は漫画を読んだり,スタッフとの会話が増えた.
【結果(44病日~)】
 退院時SIAS:66点.神経心理学的検査は,MMSE-J:16点,TMT-J:PartA75秒(異常) PartB79秒(異常).FAB:4点.MARS:59点.ADLは,FIMスコア95点(運動項目77点,認知項目18点)で,食事・上衣更衣・トイレ動作は各7点.
【考察】
 本症例は,早期より注意障害を考慮し,環境や難易度調整をするも難渋した.しかしVRを導入した事で,課題設定を調整するパラメーターを数値で管理し,注意のキャパシティに併せた刺激量を調整し段階付けた事が,運動開始を誘発出来たと考える.濱嶋らの先行研究でも,VRによる環境や難易度の詳細設定の有効性が示唆されており,本症例にも改善の一助となった.それに加え,アフォーダンスの高い見せ方や,認知しやすいフィードバックは正しい運動を学習し,成功体験や報酬のフィードバックは,本人の興味関心や意欲を引き出せた可能性があり,ADLを中心に活動や参加の幅が広がったと考える.急性期~亜急性期における,標準的なリハに加え,VRアプローチが介入方法の1つになる可能性を感じた.