第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-2-5] 脳出血後に自発性が低下した母親に対する育児役割獲得に向けた作業療法

浅葉 由美恵1, 澤田 辰徳2, 松野 由佳1, 小瀬 綾美1, 竹下 淳1 (1.イムスグループ イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科, 2.東京工科大学医療保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

【序論】
出産時に脳血管障害を受傷する場合があるが,罹患後に高次脳機能障害を抱えて育児をしている実践報告は少ない.今回,出産時の発症で高次脳機能障害を抱えた母親に対して育児への主体参加に対し介入したため報告する.発表に関して書面にて同意を得ている.
【事例紹介】
事例は30代女性で第一子妊娠中に脳室内出血と右視床出血を発症し緊急帝王切開と脳室ドレナージ術を施行された.Glasgow Coma ScaleはE4V4M6であったが自発性の低下が著名であった.出産後に娘を抱いたが無反応であったとの情報が得られた.
【初回評価/介入計画】
 ADLはFIM45/127点であり,全てに開始・継続の声かけが必要であった.本人からのニード聴取は困難で,家族はADLの自立と母親として子どもに関われることを希望された.Brunnstrom recovery stageは上肢Ⅴ手指Ⅴ下肢Ⅵで身体機能面の阻害要因は少なかった.一方,Vitality Index 2/10点で自発性の低下が著しく,高次脳機能障害は精査困難であった.したがって,ADL,IADL,育児の全てにおいて自発性低下による影響が大きいことが予測された.そのため早期から育児役割獲得に向けた自発性の向上を目的に介入を行った.
【経過】
介入初期はADL全てに工程ごとに声かけが必要であり,テレビ電話中に娘が泣くが無反応であった.したがって,ADL練習に加え,週1~2回のテレビ電話で娘に対する愛着や興味の促進へ介入した.結果,一緒に名前を呼ぶことや手を振ることで感情表出が増加し,娘の大事な時期に一緒に居られないと涙することがみられた.
介入中期はADLが概ね自立し育児への関心は改善傾向だが,自ら必要な行動を起こすことはなかった.そのため,娘のお祝いや実際の育児動作等を経験しつつ情動喚起と助言の下で行動計画を促した.また代わりに育児を担っている母親の生活を参考に育児課題の明確化や生活イメージの促進を図った.結果,具体的な行動を提案すれば育児動作の開始と遂行が可能になった.
介入後期では練習した育児動作は可能だが状況を考慮した行動計画の困難さがあった.そのため応用的な育児動作練習,母親役割獲得に向けた家族指導を行いつつ段階的に援助量を減らした.結果,ヒントがあれば行動開始が可能になった.また,娘の成長報告や洋服購入,離乳食について調べる等の自発的な行動がまれにみられた.
【最終評価】
ADLはFIM119/127点で自立した.自発性はVitality Index9/10点と向上したが,標準意欲評価法では面接法20点,質問紙法72点と中等度の意欲低下が残存した.退院後に行う育児内容を本人と家族に指導し退院となった.なお,退院後は家族と分担して育児役割を担うことができている.
【考察】
自発性の低下には問題解決の訓練や目的を持った思考法が有用であるとされている(蜂須賀,
2014).本事例の自発性向上は介入初期から娘との面会機会に加え,育児の模倣経験などを回復段階に応じて調整したことにより向上したのではないかと考える.