第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-2-6] アルツハイマー型認知症のBPSDに対して生活歴に関わる音楽を活用した事例

鍋田 一騎, 成田 雄一, 小沼 裕紀 (医療法人光陽会 関東病院リハビリテーション科)

【Antecedents of Behavior and their Consequences分析とは】Antecedents of Behavior and their Consequences(以下ABC)分析はアルツハイマー型認知症の作業療法にて有用であるといった文献が散見される.BPSDに対する分析手法として応用行動分析があり,行動随伴性に対して先行条件(Antecedent),行動(Behavior),結果(Consequence)を用いて行うことをABC分析という.今回の事例ではABC分析を用いて介入した.
【はじめに】今回,BPSDが強い事例に対して生活歴にかかわる音楽を用いた介入を実施し,不安感の改善が得られたため,後方視点的に報告する.本演題で発表する内容は,本人及び家族への説明,同意を得ている.また,当院の倫理審査委員会の承認を得た.
【症例情報,作業療法評価】X月Y日に自宅で転倒し左大腿骨頚部骨折を受傷.前院入院中より認知症の進行のため介護拒否や被害妄想が見られた.X+3ヶ月に当院の療養病棟に入院.場所,時間,人物の見当識の障害あり. 「私に死ねというんですか」,「うちに帰らせていただきます」など帰宅願望,被害妄想等のBPSDが強く見られる.全身筋緊張亢進,頚部,四肢,体幹の関節拘縮が恐怖心に繋がり,介護拒否もみられる.前院サマリーより,HDS-Rは3点であった.当院入院時のFIMは18点.重度の短期記憶障害があり,数秒前の会話の内容が想起困難である.長期記憶は生活歴に起因した内容が見られるが,整合性は乏しかった.
【作業療法介入,経過】介入開始時も身体接触を伴う介入に不安の訴え強く,ギャッジアップに対しても恐怖の訴え強く見られる.この際全身の筋緊張亢進しており,抵抗感が強い.介入初期ではバイタル測定のような軽度な接触に対しても恐怖が強く,拒否が見られた.このため作業療法では,ABC分析を用いて,BPSDを引き起こす先行条件を記憶障害,四肢の過緊張からなる体動への不安感と同定し,改善に関わる行動の模索を開始した.作業療法では音楽を流しながら会話を行い,表情や声色の安定を試みた.当初は音楽を流している間のみ不穏の軽減が見られ,特定の歌手のコンサートへ行った経験を話された.その歌手の音楽を流すことで悲観的な発言,帰宅願望が見られないなど,BPSDの軽減が見られ,拒否,恐怖の訴えは軽減していった.現在では音楽を用いない状態でも身体接触への拒否は見られず,悲観的な発言も減少している.
【結果】介入の継続により, HDS-Rは3点で維持されている.また,介入にて残存した長期記憶や事例にとっての快刺激を明確にし,過去に趣味活動であった音楽に再び触れることで,情動的な改善,悲観的な発言の減少,会話の中で笑顔が見られるなど,非言語的な豊かさが増加し,BPSDの改善が見られている.また,病棟でもご家族持ち込みの音楽プレイヤーを聞いて楽しむ等,活動の拡大に繋がっている.
【考察】作業療法ガイドライン 認知症においても,音楽活動はポジティブな感情の強化及びネガティブな感情の抑制をもたらすとの記述がある.特に実際の音楽を用いて双方向性の交流を持つことが効果的である.今回の事例においては過去になじみのある音楽を用いることが,事例にとっての快刺激となり,BPSDの軽減及びQOLの向上に繋がったと考えられる.一方で今回の事例では,多職種共同が不足しており,一時的な不安や恐怖の緩和には至ったが, 効果が持続しなかったため,長期的なBPSDの緩和に繋がるアプローチとはならなかった.
【おわりに】チーム医療の中で作業療法士が事例の感情の安定を担うことは,多職種の業務を円滑に実施する契機となるため,QOLの向上に効果的な介入を可能とすることが考えられる.そのためにも,今後も精神,心理的な評価を継続していきたい.