第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-3] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

Fri. Nov 10, 2023 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PK-3-5] 役割再開に向けてOTと家族間で「CBA(認知関連行動アセスメント)」を用いた高次脳機能障害者の一事例

恩田 真也1,2, 森田 秋子3, 鯵坂 麻希子1 (1.医療法人昌峰会加藤病院, 2.吉備国際大学大学院(通信制)保健科学研究科作業療法学専攻修士課程, 3.医療法人珪山会鵜飼リハビリテーション病院)

【はじめに】高次脳機能障害者に対する介入では,患者および家族教育や情報提供が勧められる.一方で,症状の理解が得られず,家族が患者を過剰に抑制することがある.今回,回復期退院後に役割を抑制された事例に対して,OTと家族間でCBA(認知関連行動アセスメント)を用いて,情報共有を図った.結果,家族が支援的な立場となり,役割を再開できた.家族が症状の理解や適切な関わり方を習得する目的において,CBAの有用性が示唆されたため介入経過を報告する.尚,本報告に関する開示すべきCOIはない.
【事例紹介】60代女性,診断名は右被殻出血,次女と孫の3人暮らしである.2年前の左被殻出血後,20年前に始めた小料理店を次女へ継ぎ,現在は主に家事役割を担っていた.元々はてきぱきと同時に家事をこなすことが得意であった.発表にあたり,本人より書面にて同意を得ている.
【作業療法評価】回復期退院時のFIMは119点(運動91,認知28),MMSEは28点,BADSは年齢補正94点,CATは視覚性課題が平均以上,聴覚性・記憶更新検査・順次暗算は平均を下回った.著明な運動麻痺はなく,屋内外で独歩自立である.家事の実動作場面は,料理・洗濯などのマルチタスクでエラーが増えた.外来OTの目標はCOPMで共有し,遂行・満足スコアともに7.25だった.
【介入経過】事例は,外来OTの介入当初より「危ないから」という理由で家族から行動を抑制されていた.回復期で実動作練習を通して自信をつけていたため,事例は不満を抱いていた.CAODは50点,重症度ランク2,作業機能障害の予備群だった.また,AMPSで調理課題を実施し,ロジットは運動2.6,プロセス1.1だった.よって,適切な環境調整を行えば一人で家事の作業遂行ができると判断した.そのため,家族が適切な環境調整,声かけの仕方などを行えるように介入をすすめた.まず,事例の高次脳機能障害の症状についてCBAを用いて情報共有した.CBAは21点(意識4,感情5,注意3,記憶3,判断3,病識3)だった.その後,毎回持参する連絡ノートを用いて,日常生活の観察場面,道具の選定,家族の対応についてなど,情報共有を行った.具体例として,IHコンロやスイッチoff機能付きアイロンの導入,スケジュールを毎朝家族と確認する,一つずつ課題を行うように声かけするなどをした.家族の関わり方について,事例は「できないなら,どうしように変わった」と語り,家族は徐々に支援的な立場となった.
【結果】家事役割が再開し,外来OTは12回(49日間)の介入で終了となった.COPMは遂行・満足スコアともに9.75に向上した.CAODは16点,重症度ランク1,健常群となった.終了時のCBAは23点(意識4,感情4,注意3,記憶4,判断4,病識4)だった.事例は,OTが実施した家族への介入について「私の訓練だけじゃなくて,娘のリハビリだったみたい」と語った.
【考察】本事例は,AMPSの結果が基準値の運動1.5,プロセス1.0を上回り,自立した作業遂行能力があると判断された.しかし,当初の家族はリスクに対する心配から過剰に抑制的に関わっていた.介入としてCBAを用いることで,家族はできることできないことを認識し,制止するのではなく,できるように援助する関わりに変化していった.その結果,家族が支援的な立場となり役割再開につながったと考えられる.したがって,本事例の介入経過から,家族が症状の理解や適切な関わり方を習得する目的において,CBAによる介入が有用であると示唆された.