[PK-3-6] 注意機能が模擬運転テストにおけるブレーキ・アクセル操作と手掌発汗反応に与える影響について
【背景】
自動車運転は日常生活において大切な移動手段の一つである.開発中の自動車運転認知行動評価装置(特許第5366248号)は,事前に撮影した運転映像をモニターに提示し被検者に映像に合わせて模擬運転操作を行わせ,アクセル・ブレーキ等の操作反応と危険予測により生じる手掌部発汗を評価するものである.本装置による模擬運転テストで若年者と高齢者の発汗反応の違いを明らかにしてきたが,入院患者を対象とした報告や注意機能との関係は明らかにされていない.注意機能が模擬運転テストに与える影響を明らかにすることで,注意障害をもつ患者の運転評価に役立つ所見を示すことができると考えた.本研究の目的は注意機能が模擬運転時の操作反応および手掌部発汗に与える影響を明らかにすることである.
【方法】
附属病院入院中に作業療法士が介入し,病棟生活が自立かつ自宅退院後に自動車運転希望のある24名(年齢55.6±15.2歳)を対象とした.静音環境下で本装置を用いた模擬運転テストを実施し,その前後でTrail Making Test-Japanese(以下TMT-J)を実施した.TMT-Jは所要時間で判定し,年代別基準値の2標準偏差内を正常,2標準偏差以上を延長とし,part A・Bの両方が正常であった患者を注意機能正常群,part A・Bのどちらかまたは両方が延長であった患者を注意機能低下群に分類した.本研究ではボールの飛び出しに対し咄嗟のブレーキ操作が求められる「危険場面」と十字路で状況を注意深く観察することが求められる「危険予測場面」の2場面を抽出した.操作反応は各場面の状況に合わせて適切なアクセル・ブレーキ操作ができているかを映像に対応する波形変化で評価し,どちらか一方の操作が不十分であれば誤反応と判定した.手掌部発汗量は発汗計(SMN-1000,SKINOS)を用いプローブを左母指手掌面に貼付して測定し各場面の5秒間で平均値を算出した.操作反応はFisher's exact testを用いて検討した.発汗反応量はShapiro-Wilk検定にて正規性の有無を確認し,各場面における群間比較をMann–Whitney U testにて実施した.これらの統計処理にはEZR(64-bit)を使用し,有意水準は5%とした.尚,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,かつ所属施設の臨床研究に関する倫理審査会の承認を得て行った(承認番号4370).
【結果】
疾患分類は脳腫瘍が12名,脳卒中が5名,頭部外傷が2名,その他(心停止後蘇生,低酸素脳症など)が5名だった.注意機能低下群は15名,注意機能正常群は9名に分類された.操作反応は危険場面では低下群では1名を除き,正常群では全員が適切な反応を示していた.一方,危険予測場面では低下群で9名に誤反応,正常群でも5名で誤反応を示したが,群間差は認めなかった.手掌部発汗反応量は危険場面では低下群で0.50±0.36(mg/cm2・min,以下単位略),正常群は0.48±0.29で有意差はなかった.一方,危険予測場面では低下群で0.55±0.36,正常群は0.59±0.28で有意に高かった(p < 0.01).
【考察】
危険予測場面では操作反応に差はなかったものの,注意機能が良好な群では手掌部発汗量が高くなることが明らかとなった.これは,注意深く状況を観察することで生じる緊張感により精神性発汗反応が出現したためと考えられる.従って,模擬運転テストにおいて,注意機能は運転操作反応だけではなく,危険を予測する場面での情動反応にも影響する可能性が示された.本装置による模擬運転テストでは,ブレーキやアクセルの操作反応だけでなく手掌部発汗反応から患者の危険予測の有無を把握できるため,運転再開を希望する患者の運転適性の評価に有効であることが示唆された.
自動車運転は日常生活において大切な移動手段の一つである.開発中の自動車運転認知行動評価装置(特許第5366248号)は,事前に撮影した運転映像をモニターに提示し被検者に映像に合わせて模擬運転操作を行わせ,アクセル・ブレーキ等の操作反応と危険予測により生じる手掌部発汗を評価するものである.本装置による模擬運転テストで若年者と高齢者の発汗反応の違いを明らかにしてきたが,入院患者を対象とした報告や注意機能との関係は明らかにされていない.注意機能が模擬運転テストに与える影響を明らかにすることで,注意障害をもつ患者の運転評価に役立つ所見を示すことができると考えた.本研究の目的は注意機能が模擬運転時の操作反応および手掌部発汗に与える影響を明らかにすることである.
【方法】
附属病院入院中に作業療法士が介入し,病棟生活が自立かつ自宅退院後に自動車運転希望のある24名(年齢55.6±15.2歳)を対象とした.静音環境下で本装置を用いた模擬運転テストを実施し,その前後でTrail Making Test-Japanese(以下TMT-J)を実施した.TMT-Jは所要時間で判定し,年代別基準値の2標準偏差内を正常,2標準偏差以上を延長とし,part A・Bの両方が正常であった患者を注意機能正常群,part A・Bのどちらかまたは両方が延長であった患者を注意機能低下群に分類した.本研究ではボールの飛び出しに対し咄嗟のブレーキ操作が求められる「危険場面」と十字路で状況を注意深く観察することが求められる「危険予測場面」の2場面を抽出した.操作反応は各場面の状況に合わせて適切なアクセル・ブレーキ操作ができているかを映像に対応する波形変化で評価し,どちらか一方の操作が不十分であれば誤反応と判定した.手掌部発汗量は発汗計(SMN-1000,SKINOS)を用いプローブを左母指手掌面に貼付して測定し各場面の5秒間で平均値を算出した.操作反応はFisher's exact testを用いて検討した.発汗反応量はShapiro-Wilk検定にて正規性の有無を確認し,各場面における群間比較をMann–Whitney U testにて実施した.これらの統計処理にはEZR(64-bit)を使用し,有意水準は5%とした.尚,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,かつ所属施設の臨床研究に関する倫理審査会の承認を得て行った(承認番号4370).
【結果】
疾患分類は脳腫瘍が12名,脳卒中が5名,頭部外傷が2名,その他(心停止後蘇生,低酸素脳症など)が5名だった.注意機能低下群は15名,注意機能正常群は9名に分類された.操作反応は危険場面では低下群では1名を除き,正常群では全員が適切な反応を示していた.一方,危険予測場面では低下群で9名に誤反応,正常群でも5名で誤反応を示したが,群間差は認めなかった.手掌部発汗反応量は危険場面では低下群で0.50±0.36(mg/cm2・min,以下単位略),正常群は0.48±0.29で有意差はなかった.一方,危険予測場面では低下群で0.55±0.36,正常群は0.59±0.28で有意に高かった(p < 0.01).
【考察】
危険予測場面では操作反応に差はなかったものの,注意機能が良好な群では手掌部発汗量が高くなることが明らかとなった.これは,注意深く状況を観察することで生じる緊張感により精神性発汗反応が出現したためと考えられる.従って,模擬運転テストにおいて,注意機能は運転操作反応だけではなく,危険を予測する場面での情動反応にも影響する可能性が示された.本装置による模擬運転テストでは,ブレーキやアクセルの操作反応だけでなく手掌部発汗反応から患者の危険予測の有無を把握できるため,運転再開を希望する患者の運転適性の評価に有効であることが示唆された.