[PK-5-2] 遂行機能障害により衝動的な行為の選択を行う症例に対する介入経験
【はじめに】目標を設定し計画を立て,効果的に行為を実行する能力である遂行機能は,自立的で創造的,かつ社会的に建設的な行動をとるために不可欠なものとされている(Lezak,1982).本報告では,遂行機能障害により移乗の介助量が増大した症例に,自身の認知特性を理解しセルフコントロールを行うことの有用性を症例考察から検討する.
【症例紹介】症例は本発表に同意を得た70歳代男性で,自宅で転倒し救急搬送され広範性脊柱管狭窄症と診断された.C3の椎弓部分切除術,C4-6の椎弓切除術,Th11/12とL2-4の開窓的椎弓部分切除術,Th10/11,L4/5の右側椎弓切除術を施行した.受傷から3ヶ月時点で下肢の関節可動域制限は認めず,腸腰筋,大腿四頭筋,前脛骨筋のMMTは左右ともに2-3で,下肢の表在感覚は中等度鈍麻,深部感覚は重度鈍麻であった.Barthel Index(B.I)は15点,移乗は介助者を両手で把持し1人介助で可能も,教示がなければ手すりなど支持物を瞬時に把持し,下肢の位置が遠位に位置したまま立ち上がれず2人介助を要していた.そこで「下肢の位置を揃える」,「介助者を把持して立ち上がる」,「ステップを踏む」に分け動作練習を実施すると即時的には1人介助での移乗が可能となるが,異なる場面や翌日には汎化されなかった.
【神経心理学的評価】症例の教育歴は未就学で,読み書きは氏名とひらがな程度であった.Trail Making Test-Aは6分45秒,Bは実施困難,レーヴン色彩マトリックス検査は総得点19/36,総所要時間14分23秒で,いずれのSETも前半の項目1-6と比較し,難易度が上がる後半の項目7-12の解答時間は短かった.ハノイの塔は完遂可能,Frontal Assessment Batteryは6点(Go/Nogo)0点,Barratt Impulsiveness Scale-Ver. 11(BSI-11) は全般的な衝動性の高さを認めた.また,療法士による評価と比較し,「慎重な計画と思考の欠如」,「衝動的行動」で自覚が乏しかった.
【病態解釈】行動のプログラムは保たれているが,遂行機能の基盤である行動抑制機能の低下や注意の統制と計画性の低下,ワーキングメモリの低下により,自己をコントロールできず移乗時に手すりなどを瞬時に掴むなど衝動的な行動となっており,安全な行動様式の定着を妨げていると考えた.
【介入】BSI-11の結果を基に症例本人に自己の認知特性の理解を求め,衝動性のコントロールを促しながら2つの課題を1日30分7日間実施した.課題1ではパソコン画面に,椅子座位を側方から撮影した4枚の写真(膝関節屈曲100°, 90°, 80°, 70°)を提示し,「一番立ちやすいのはどれか」など動作を想起した身体位置の判断を求めた.課題2ではトイレや階段など異なる環境の写真を4種提示し,「椅子に移る時と同じ動作になるのはどれか」など,類似する動作場面の選択を求めた.反応が速く衝動的な選択の際はBSI-11の共有をその都度行い,適切な回答へと導いた.
【結果】移乗時に自ら介助者の腕を把持し1人介助で可能となり,B.Iが25点となった.また,環境が変わった際も「すぐしてしまうのが悪いところ」との発言と共に手順を思考する様子を認め,BSI-11の自覚の乏さも解消した.
【考察】非効率で介助量が増大する方法を選択する症例に対して,衝動性の高さと動作場面の正確性を共有する介入課題を実施することで行動変容が生じた可能性がある.遂行機能障害を有する症例の日常生活動作能力の向上には,症例と認知特性を共有し,行動の抑制が可能となるような課題設定が重要と考える.
【症例紹介】症例は本発表に同意を得た70歳代男性で,自宅で転倒し救急搬送され広範性脊柱管狭窄症と診断された.C3の椎弓部分切除術,C4-6の椎弓切除術,Th11/12とL2-4の開窓的椎弓部分切除術,Th10/11,L4/5の右側椎弓切除術を施行した.受傷から3ヶ月時点で下肢の関節可動域制限は認めず,腸腰筋,大腿四頭筋,前脛骨筋のMMTは左右ともに2-3で,下肢の表在感覚は中等度鈍麻,深部感覚は重度鈍麻であった.Barthel Index(B.I)は15点,移乗は介助者を両手で把持し1人介助で可能も,教示がなければ手すりなど支持物を瞬時に把持し,下肢の位置が遠位に位置したまま立ち上がれず2人介助を要していた.そこで「下肢の位置を揃える」,「介助者を把持して立ち上がる」,「ステップを踏む」に分け動作練習を実施すると即時的には1人介助での移乗が可能となるが,異なる場面や翌日には汎化されなかった.
【神経心理学的評価】症例の教育歴は未就学で,読み書きは氏名とひらがな程度であった.Trail Making Test-Aは6分45秒,Bは実施困難,レーヴン色彩マトリックス検査は総得点19/36,総所要時間14分23秒で,いずれのSETも前半の項目1-6と比較し,難易度が上がる後半の項目7-12の解答時間は短かった.ハノイの塔は完遂可能,Frontal Assessment Batteryは6点(Go/Nogo)0点,Barratt Impulsiveness Scale-Ver. 11(BSI-11) は全般的な衝動性の高さを認めた.また,療法士による評価と比較し,「慎重な計画と思考の欠如」,「衝動的行動」で自覚が乏しかった.
【病態解釈】行動のプログラムは保たれているが,遂行機能の基盤である行動抑制機能の低下や注意の統制と計画性の低下,ワーキングメモリの低下により,自己をコントロールできず移乗時に手すりなどを瞬時に掴むなど衝動的な行動となっており,安全な行動様式の定着を妨げていると考えた.
【介入】BSI-11の結果を基に症例本人に自己の認知特性の理解を求め,衝動性のコントロールを促しながら2つの課題を1日30分7日間実施した.課題1ではパソコン画面に,椅子座位を側方から撮影した4枚の写真(膝関節屈曲100°, 90°, 80°, 70°)を提示し,「一番立ちやすいのはどれか」など動作を想起した身体位置の判断を求めた.課題2ではトイレや階段など異なる環境の写真を4種提示し,「椅子に移る時と同じ動作になるのはどれか」など,類似する動作場面の選択を求めた.反応が速く衝動的な選択の際はBSI-11の共有をその都度行い,適切な回答へと導いた.
【結果】移乗時に自ら介助者の腕を把持し1人介助で可能となり,B.Iが25点となった.また,環境が変わった際も「すぐしてしまうのが悪いところ」との発言と共に手順を思考する様子を認め,BSI-11の自覚の乏さも解消した.
【考察】非効率で介助量が増大する方法を選択する症例に対して,衝動性の高さと動作場面の正確性を共有する介入課題を実施することで行動変容が生じた可能性がある.遂行機能障害を有する症例の日常生活動作能力の向上には,症例と認知特性を共有し,行動の抑制が可能となるような課題設定が重要と考える.