第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-5] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PK-5-4] 幕張版メモリーノートの自立的使用に関連が高い神経心理学的検査の探索

藤井 美香1, 福島 真実1, 清水 一2, 澤田 梢1, 近藤 啓太1 (1.広島県立障害者リハビリテーションセンター, 2.高知リハビリテーション専門職大学)

【序論】当センターでは高次脳機能障害者に対し,「幕張版メモリーノート(以下MMN)」を導入している.メモリーノート(以下MN)使用・活用と神経心理学検査結果との関係に関する研究は多く,MN使用定着の要因として,MN使用は記憶障害者のおかれている状況と深い関わりをもち,本人がもつ動機によって使用が左右される1)との報告もある.
【目的】MMN自立使用の可否と関連の強い因子を明らかにし(研究Ⅰ),臨床でMMNが自立使用できるか判別する方法を判別分析を用いて開発し,その判別精度を推定する(研究Ⅱ)こととした.
【方法】対象は2019年から2021年に当センターに入院し,MMNを導入した18歳以上65歳未満の記憶障害を呈した高次脳機能障害者とした.発症から1年以内の者,失語症・発達障害・精神障害と診断されていない者は除外とした.対象者の①年齢②性別③発症からの経過月④障害への気づきの有無⑤RBMT⑥TMT-A⑦TMT-B⑧WAIS処理速度⑨MMSE⑩HDS-Rのデータを後方視的に収集し,MMN自立使用度を当センターの評価尺度に基づき『自立使用群』『非自立使用群』の2群に分類した.障害への気づきの評価はCrosson分類を参考に『気づきなし』『気づきあり』の2群に分類した.研究ⅠはMann‐WhitneyU検定,Fisherの直接確率検定を用いて2群間の比較を実施した.研究ⅡはMMN自立使用可否を従属変数,上記①~⑩各項目を独立変数とし,多変量解析の判別分析を用いて判別式を求め精度を算出した.更に,数学的に妥当な判別式を求めるため変数増加法を実施した.統計処理はMulcel・SPSSを使用し,統計学的有意水準は5%とした.本研究は,当センター倫理規定に基づいて実施した.
【結果】対象者は40名(男性35名,女性5名),平均年齢42.5±12.0歳,経過月数8.9±4.9カ月,MMN自立使用度は自立使用群13名,非自立使用群27名であった.研究Ⅰ:神経心理学的検査について2群間に有意差を認めなかったが,「障害への気づき」で2群間に有意傾向を認めた(p<0.052).研究Ⅱ:MMN自立の可否を求める判別式として,Z=0.09×①-0.91×②-0.04×③+2.87×④+0.17×⑤+0.00×⑥-0.01×⑦-0.04×⑧+0.43×⑨-0.39×⑩-4.56が導き出された.自立使用群の正判別率62%,非自立使用群の正判別率81%,全体で正判別率76.3%であった.更に変数増加法を実施した結果,「障害への気づき」のみが有意な項目として抽出され(p<0.047),MMN自立使用の可否を求める判別式としてZ=1.52×(障害への気づき)-0.58が導き出され,自立使用群の正判別率54%,非自立使用群の正判別率78%,全体で正判別率66%であった.
【考察】結果より,「障害への気づき」がMMN使用自立に関連している可能性が考えられた.MMNを介入する際は,MNの必要性の理解を促すことが重要と考える.判別式にて神経心理学的検査項目が除外された要因として,当センターでは各担当者が神経心理学的検査結果を加味しMMNを導入するか決定しており,MMN自立使用群と非自立使用群の神経心理学的検査については類似した結果となり,有意差が認められなかったと考える.導き出された判別式は全体の正判別率は66%であり,臨床的に有用な精度ではない.MMN自立使用可否には今回抽出したデータ以外の動機付けやモニタリング能力,環境要因等も関連している可能性が高い.今後,誤判別された症例について後方視的に調査し,MMN自立使用の可否に関連する要因を更に検討していきたい.
【文献】内田愛,郷右近歩,菊池紀彦,平野幹雄,野口和人,熊井正之:記憶障害者の日常生活におけるメモリーノート利用の実態:利用場面および利用内容の違いに着目して,教育情報学研究6:35-43,2007.