[PK-5-5] 複数の高次脳機能障害の気づきの階層に応じた介入手段の検討
【序論】障害の「気づき」は高次脳機能障害者支援の中心(阿部,1999)とされるが,介入手段は確立していない.今回,我々は,半側空間無視,遂行機能障害を客観的に認識できないまま「復職したい.」と主張を続ける症例を経験した.各障害に日本語版SRSI(以下,SRSI)を活用し,気づきの階層に合わせた介入手段を検討したため,報告する.
【目的】各障害の「気づき」の獲得におけるSRSIの有用性を検討することである.
【症例】66歳,男性,右利き.診断名:脳挫傷.頭部X線CT:右前頭葉~側頭葉にかけて高吸収域を認めた.明らかな運動感覚障害なし,BI:75/100点.職歴:薬剤師,HOPE:「どこも悪くない,復職したい.」
【倫理的配慮】本研究は川崎市立川崎病院の倫理審査委員会の承認を得ており,本症例には発表の趣旨を口頭および書面で説明し同意を得た.開示すべきCOIはない.
【神経心理学的所見】<X+23日→X+50日>MMSE:29点→30/30点.BIT(通常検査):128点→141/146点.BADS:12点→22/24点.標的課題はA:半側空間無視(左靴の履き忘れ,左側自室に気づけない),B:遂行機能障害(複数課題を効率的に遂行できない)を抽出した.
【方法】本症例に,Ⅲ期に分けてSRSIを実施し,各標的課題の気づきの階層に合わせた介入を検討した.各質問の評点はガイドライン(宮原ら,2012)に沿って算出(0~10点).また,中島ら(2021)の報告を参考に,SRSIはCrossonら(1989)の気づきの階層モデルに合わせ分類した.スクリーニングは「知的気づき」,質問1・2(出現している問題・問題の予測)は「体験的気づき」,質問4~6(戦略の生成・戦略の使用・戦略の効果)は「予測的気づき」とし,標的課題が抽出されない場合,「気づきなし」とした.
【経過(X:発症日)】<入院Ⅰ期(X+23日)>スクリーニング:標的課題抽出されず.気づきの階層は「気づきなし」,介入:検査結果を共有,また,ガイドブック・マニュアル(東京都)を活用し,障害理解を図った.介入後,「勉強になる.自分では気づかなかった.」と発言あり.<入院Ⅱ期(X+30日)>スクリーニング:標的課題A・Bを抽出.標的課題A:質問1・2は「まだ部屋の位置は迷います,せっかちなもので.」と回答量は最小量と判断(8~9点),質問4~6は「繰り返しやるしかない.」と曖昧な回答(8~9点).気づきの階層は「知的気づき」.追加した介入:動作場面で症状や対応手段を適宜フィードバックした.標的課題B:質問1・2は「仕事の作業が非効率になる.」と明確な例を挙げた(3~5点)が,質問4~6は,「注意します.」と回答(8~9点).気づきの階層は「体験的気づき」.介入:ADLや仕事の関連課題を通し,予測されるリスクを紙面で共有した.<外来期(X+50日)>全質問で標的課題A・Bに対する戦略的な作業の進め方の回答あり(3~4点).気づきの階層は「予測的気づき」を獲得.
【考察】Crossonら(1989)は,気づきの階層に合わせた補填手段の選択を,中島ら(2021)は,障害ごとのSRSI導入の必要性を述べている.本症例のように,複数の高次脳機能障害の「気づき」の欠如から社会復帰の影響が予測される場合,各障害に対するSRSIの継続的活用は,「気づき」の階層変化に応じた効果的な介入につながると思われた.
【結語】各障害へのSRSIの活用は,自身の障害に気づく契機となった可能性がある.
【作業療法実践の意義】筆者らの経験から,高次脳機能障害者は,入院中に自己の障害の適切な情報が少ないまま,退院するケースが散見される.単一症例ではあるが,高次脳機能障害の診療に携わる作業療法士にとって,SRSIは活用すべき有用なツールと思われた.
【目的】各障害の「気づき」の獲得におけるSRSIの有用性を検討することである.
【症例】66歳,男性,右利き.診断名:脳挫傷.頭部X線CT:右前頭葉~側頭葉にかけて高吸収域を認めた.明らかな運動感覚障害なし,BI:75/100点.職歴:薬剤師,HOPE:「どこも悪くない,復職したい.」
【倫理的配慮】本研究は川崎市立川崎病院の倫理審査委員会の承認を得ており,本症例には発表の趣旨を口頭および書面で説明し同意を得た.開示すべきCOIはない.
【神経心理学的所見】<X+23日→X+50日>MMSE:29点→30/30点.BIT(通常検査):128点→141/146点.BADS:12点→22/24点.標的課題はA:半側空間無視(左靴の履き忘れ,左側自室に気づけない),B:遂行機能障害(複数課題を効率的に遂行できない)を抽出した.
【方法】本症例に,Ⅲ期に分けてSRSIを実施し,各標的課題の気づきの階層に合わせた介入を検討した.各質問の評点はガイドライン(宮原ら,2012)に沿って算出(0~10点).また,中島ら(2021)の報告を参考に,SRSIはCrossonら(1989)の気づきの階層モデルに合わせ分類した.スクリーニングは「知的気づき」,質問1・2(出現している問題・問題の予測)は「体験的気づき」,質問4~6(戦略の生成・戦略の使用・戦略の効果)は「予測的気づき」とし,標的課題が抽出されない場合,「気づきなし」とした.
【経過(X:発症日)】<入院Ⅰ期(X+23日)>スクリーニング:標的課題抽出されず.気づきの階層は「気づきなし」,介入:検査結果を共有,また,ガイドブック・マニュアル(東京都)を活用し,障害理解を図った.介入後,「勉強になる.自分では気づかなかった.」と発言あり.<入院Ⅱ期(X+30日)>スクリーニング:標的課題A・Bを抽出.標的課題A:質問1・2は「まだ部屋の位置は迷います,せっかちなもので.」と回答量は最小量と判断(8~9点),質問4~6は「繰り返しやるしかない.」と曖昧な回答(8~9点).気づきの階層は「知的気づき」.追加した介入:動作場面で症状や対応手段を適宜フィードバックした.標的課題B:質問1・2は「仕事の作業が非効率になる.」と明確な例を挙げた(3~5点)が,質問4~6は,「注意します.」と回答(8~9点).気づきの階層は「体験的気づき」.介入:ADLや仕事の関連課題を通し,予測されるリスクを紙面で共有した.<外来期(X+50日)>全質問で標的課題A・Bに対する戦略的な作業の進め方の回答あり(3~4点).気づきの階層は「予測的気づき」を獲得.
【考察】Crossonら(1989)は,気づきの階層に合わせた補填手段の選択を,中島ら(2021)は,障害ごとのSRSI導入の必要性を述べている.本症例のように,複数の高次脳機能障害の「気づき」の欠如から社会復帰の影響が予測される場合,各障害に対するSRSIの継続的活用は,「気づき」の階層変化に応じた効果的な介入につながると思われた.
【結語】各障害へのSRSIの活用は,自身の障害に気づく契機となった可能性がある.
【作業療法実践の意義】筆者らの経験から,高次脳機能障害者は,入院中に自己の障害の適切な情報が少ないまま,退院するケースが散見される.単一症例ではあるが,高次脳機能障害の診療に携わる作業療法士にとって,SRSIは活用すべき有用なツールと思われた.