[PK-5-6] 「色が覚えやすい」と自覚したことで代償の獲得が可能となった一例
【はじめに】道順障害に,複数の高次脳機能障害を併発したため代償の獲得に難渋したが,自分が覚えられるものに気づいた事で代償の獲得が可能となった症例を経験したので,症例の内省を交え報告する.報告にあたり本人及び家族に説明を行い,同意を得た.
【症例紹介】80代女性,右手利き,主婦.家事から畑作業,登山等様々な活動に取り組んでいた.夫,息子と同居.自宅で体動困難となり脳神経外科を受診,頭部CTにて右頭頂葉の皮質下出血を認めた.23病日にリハビリテーション目的で当院入院となる.
【入院時評価】意識レベルは清明.左上下肢に軽度の運動麻痺と左同名半盲を認めた. ADLに一部介助を要した.FIM101点.MMSE-J21/30 ,TMT-JはPartA,B共に途中で中止,BIT通常検査129/146,行動検査54/81,FAB13/18,WMS-R言語性記憶90,左半側空間無視,視覚性注意障害,全般性注意障害,道順障害といった高次脳機能障害を認めた.色彩認知は保たれていた.
【経過】入院時は移動時の恐怖心が強く手引き介助を要した.1週で声掛けがあれば移動は可能となったが,道順は覚えられず,本人も「道が覚えられない」と話していた.OTでは代償の獲得を目標に,内的代償,外的代償の両方の使用訓練を行ったが,活用は困難だった.33病日に,症例から「カーテンの色でトイレを覚えられた」といった発言が聞かれ,これを機に頻繁に通る道では迷うことが減少した.OTでは「赤い消火器」のように目印と色を関連付ける事を意識して介入した.階が変わると混乱していたが, 41病日に訓練室で花の水やりをした後「花を見つけてから1階がリハビリ室だと覚えられた」と話し,この頃から階が変わっても混乱する事が減り,日中の病棟内移動は遠位監視となった.しかし消灯後の移動には介助を要し,居室が一つ横の部屋に移動すると再び迷う様子がみられたが,色と目印を組み合わせて道順を記銘する訓練を行うと2~3日で改善した.
【退院前のインタビューから】前の病院では認知症に近い状態と話を聞いてもう何も覚えられないんだと思っていた.担当療法士には申し訳ないけど一生懸命道を覚える練習をしても中々覚えられなかった.でもある日リハ室の案内表示を見た時に色で覚えられるんだということが分かった.色や自分が好きだった花とか特徴のある物を頼りにすれば覚えられることが分かって,世界がパッと明るくなった.
【考察】道順障害には外的代償が有効といわれているが,複数の高次脳機能障害を呈した症例には外的代償の獲得は困難だった.言語による内的代償も目印を探すことが難しく,覚えられないことで意欲も低下していた.しかし,「色なら覚えられる」と自覚してから代償の獲得が進んでいった.長野は「代償手段を用いることで日常生活で問題が顕在化しにくくなれば,そのことが成功体験としてその後の訓練への動機づけを高めることとなる」と述べている(長野友里,2012).症例も「色なら覚えられる」と自覚した事が成功体験となり,自ら覚えられるものを探し出すようになった.また,OTでも症例の内省を訓練に取り入れたことで,さらに成功体験を重ね,代償の獲得を促したと考えられた.また,「花は覚えらえれた」という発言より,花が好きだった症例には花へのみずやりが有効だったと考えられる.症例は「他の患者さんでも,私のように何かがきっかけになって覚えられる人がいるかもしれないから患者さんの話によく耳を傾けてほしい」と語っており,患者と共に,個別性を尊重した訓練を構築していく事が重要になると考えられる.
【症例紹介】80代女性,右手利き,主婦.家事から畑作業,登山等様々な活動に取り組んでいた.夫,息子と同居.自宅で体動困難となり脳神経外科を受診,頭部CTにて右頭頂葉の皮質下出血を認めた.23病日にリハビリテーション目的で当院入院となる.
【入院時評価】意識レベルは清明.左上下肢に軽度の運動麻痺と左同名半盲を認めた. ADLに一部介助を要した.FIM101点.MMSE-J21/30 ,TMT-JはPartA,B共に途中で中止,BIT通常検査129/146,行動検査54/81,FAB13/18,WMS-R言語性記憶90,左半側空間無視,視覚性注意障害,全般性注意障害,道順障害といった高次脳機能障害を認めた.色彩認知は保たれていた.
【経過】入院時は移動時の恐怖心が強く手引き介助を要した.1週で声掛けがあれば移動は可能となったが,道順は覚えられず,本人も「道が覚えられない」と話していた.OTでは代償の獲得を目標に,内的代償,外的代償の両方の使用訓練を行ったが,活用は困難だった.33病日に,症例から「カーテンの色でトイレを覚えられた」といった発言が聞かれ,これを機に頻繁に通る道では迷うことが減少した.OTでは「赤い消火器」のように目印と色を関連付ける事を意識して介入した.階が変わると混乱していたが, 41病日に訓練室で花の水やりをした後「花を見つけてから1階がリハビリ室だと覚えられた」と話し,この頃から階が変わっても混乱する事が減り,日中の病棟内移動は遠位監視となった.しかし消灯後の移動には介助を要し,居室が一つ横の部屋に移動すると再び迷う様子がみられたが,色と目印を組み合わせて道順を記銘する訓練を行うと2~3日で改善した.
【退院前のインタビューから】前の病院では認知症に近い状態と話を聞いてもう何も覚えられないんだと思っていた.担当療法士には申し訳ないけど一生懸命道を覚える練習をしても中々覚えられなかった.でもある日リハ室の案内表示を見た時に色で覚えられるんだということが分かった.色や自分が好きだった花とか特徴のある物を頼りにすれば覚えられることが分かって,世界がパッと明るくなった.
【考察】道順障害には外的代償が有効といわれているが,複数の高次脳機能障害を呈した症例には外的代償の獲得は困難だった.言語による内的代償も目印を探すことが難しく,覚えられないことで意欲も低下していた.しかし,「色なら覚えられる」と自覚してから代償の獲得が進んでいった.長野は「代償手段を用いることで日常生活で問題が顕在化しにくくなれば,そのことが成功体験としてその後の訓練への動機づけを高めることとなる」と述べている(長野友里,2012).症例も「色なら覚えられる」と自覚した事が成功体験となり,自ら覚えられるものを探し出すようになった.また,OTでも症例の内省を訓練に取り入れたことで,さらに成功体験を重ね,代償の獲得を促したと考えられた.また,「花は覚えらえれた」という発言より,花が好きだった症例には花へのみずやりが有効だったと考えられる.症例は「他の患者さんでも,私のように何かがきっかけになって覚えられる人がいるかもしれないから患者さんの話によく耳を傾けてほしい」と語っており,患者と共に,個別性を尊重した訓練を構築していく事が重要になると考えられる.