[PK-6-1] 脳損傷者の道順障害に対する誤りなし学習の効果
【はじめに】脳損傷によって起こる道順障害は,認知症や意識障害がないにもかかわらず熟知した地域内でのある地点からほかの地点への道順の想起障害と定義されている.アルツハイマー型認知症者の道順障害に対して誤りなし(EL)学習が有効であると報告しているが,道順障害のみを呈する者に対して場所⁻道順連合学習課題でのEL学習の効果は明らかになっていない.
【目的】脳損傷者の道順障害に対する効果的な介入方法の開発に資する知見を得ることをねらいとして,脳損傷者の場所-道順連合学習課題におけるEL学習の再生成績を誤りあり(EF)学習の記憶促進効果と比較した.
【倫理的配慮】本研究は,倫理委員会の承認を得た上で実施した.対象者に対しては,事前に書面によるインフォームド・コンセントを得た.
【方法】対象は道順障害を呈する1症例とした.基本情報はくも膜下出血を呈し発症後約1カ月経過していた.年齢は60歳代,性別は男性であった.作業療法評価はRAYの複雑図形:模写36/36点,直後再生17.5/36点,コース立方体テスト:IQ=70,Frontal Assessment Battery:11/18点,The rivermead behavioral memory Test:標準プロフィール12/24点,スクリーニング3/12点,Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome:9/24点であった.
研究デザインは,ABAB型シングルシステムデザインを用いた.アウトカム指標は,研究者が指示した目的地までの道中の6か所(分かれ道)における間違えの程度とした.得点化は,道順を間違え声かけをしても修正が不可能(1点),道順を間違え声かけをすれば修正が可能(2点),道順を間違えたがすぐに自己修正が可能(3点),道順を間違えない(4点)とした(総得点6~24点).介入方法はベースライン期(A期)には,対象者が間違った方向へ進んだことを研究者が確認した後に正しい道へ身体的誘導し道順を呈示する「EF学習」を用いた.介入期(B期)には,目的地までのすべての行程において正しい道を研究者が身体的誘導し道順を呈示し「EL学習」を用いた.研究期間はA期を6日間(6データ),B期を6日間(6データ)とし,A期B期を合わせて1クールとして2クール実施(A1期→B1期→A2期→B2期)した(ABABデザイン).
結果判定は中央分割法によるceleration lineを用いた視覚的分析(CL分析)を用いた.具体的には各クールのA期間の得点(データ点)を2分割にし,前半と後半の中央値を求め,それぞれの中央値を結んだラインをCLとし,CLをB期間に延長させてB期間のデータ点を延長線の上下で分けた(A1-B1期,A2-B2期).更にB1期のデータ点のCLを算出しその直線をA2期に延長させてA2期のデータ点を延長線の上下で分けた(B1-A2期).その後,延長線の上下のデータ点の個数を比較した.比較には正確二項検定を用い有意水準は両側検定で5%未満とし,効果量Wも算出した.
【結果】各学習期の再生段階の得点平均はEL学習B1期で22.0点(SD 1.63),B2期で23.7点(SD 0.47),EF学習A1期14.3点(SD 1.37),A2期21.2点(SD 1.07)であった.A1-B1期,A2-B2期のCL分析結果は,B1期,B2期ともに,延長戦の上方に位置したデータ点は6個,下方に位置した得点は0個であり有意な差が認められた(P=0.036).効果量は,Large (W =1.00)であった.B1-A2期のCL分析結果は,延長戦の下方に位置したデータ点は6個,上方に位置した得点は0個であり有意な差が認められた(P=0.036).効果量は,Large (W =1.00)であった.
【結論】EL学習はEF学習に比べて道順記銘の効果が高く脳損傷者における道順障害者においてEL学習の有効性が示唆された.今後,多標本における更なる検討が必要である.
【目的】脳損傷者の道順障害に対する効果的な介入方法の開発に資する知見を得ることをねらいとして,脳損傷者の場所-道順連合学習課題におけるEL学習の再生成績を誤りあり(EF)学習の記憶促進効果と比較した.
【倫理的配慮】本研究は,倫理委員会の承認を得た上で実施した.対象者に対しては,事前に書面によるインフォームド・コンセントを得た.
【方法】対象は道順障害を呈する1症例とした.基本情報はくも膜下出血を呈し発症後約1カ月経過していた.年齢は60歳代,性別は男性であった.作業療法評価はRAYの複雑図形:模写36/36点,直後再生17.5/36点,コース立方体テスト:IQ=70,Frontal Assessment Battery:11/18点,The rivermead behavioral memory Test:標準プロフィール12/24点,スクリーニング3/12点,Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome:9/24点であった.
研究デザインは,ABAB型シングルシステムデザインを用いた.アウトカム指標は,研究者が指示した目的地までの道中の6か所(分かれ道)における間違えの程度とした.得点化は,道順を間違え声かけをしても修正が不可能(1点),道順を間違え声かけをすれば修正が可能(2点),道順を間違えたがすぐに自己修正が可能(3点),道順を間違えない(4点)とした(総得点6~24点).介入方法はベースライン期(A期)には,対象者が間違った方向へ進んだことを研究者が確認した後に正しい道へ身体的誘導し道順を呈示する「EF学習」を用いた.介入期(B期)には,目的地までのすべての行程において正しい道を研究者が身体的誘導し道順を呈示し「EL学習」を用いた.研究期間はA期を6日間(6データ),B期を6日間(6データ)とし,A期B期を合わせて1クールとして2クール実施(A1期→B1期→A2期→B2期)した(ABABデザイン).
結果判定は中央分割法によるceleration lineを用いた視覚的分析(CL分析)を用いた.具体的には各クールのA期間の得点(データ点)を2分割にし,前半と後半の中央値を求め,それぞれの中央値を結んだラインをCLとし,CLをB期間に延長させてB期間のデータ点を延長線の上下で分けた(A1-B1期,A2-B2期).更にB1期のデータ点のCLを算出しその直線をA2期に延長させてA2期のデータ点を延長線の上下で分けた(B1-A2期).その後,延長線の上下のデータ点の個数を比較した.比較には正確二項検定を用い有意水準は両側検定で5%未満とし,効果量Wも算出した.
【結果】各学習期の再生段階の得点平均はEL学習B1期で22.0点(SD 1.63),B2期で23.7点(SD 0.47),EF学習A1期14.3点(SD 1.37),A2期21.2点(SD 1.07)であった.A1-B1期,A2-B2期のCL分析結果は,B1期,B2期ともに,延長戦の上方に位置したデータ点は6個,下方に位置した得点は0個であり有意な差が認められた(P=0.036).効果量は,Large (W =1.00)であった.B1-A2期のCL分析結果は,延長戦の下方に位置したデータ点は6個,上方に位置した得点は0個であり有意な差が認められた(P=0.036).効果量は,Large (W =1.00)であった.
【結論】EL学習はEF学習に比べて道順記銘の効果が高く脳損傷者における道順障害者においてEL学習の有効性が示唆された.今後,多標本における更なる検討が必要である.