[PK-6-2] スマートフォンを手掛かりにして予定に応じた日常生活動作が可能となった,単純ヘルペス脳炎後に重度の記憶障害を呈した一例
【はじめに】 単純ヘルペス脳炎(HSE)は,重篤な健忘や陳述記憶の障害が残存しやすいが,手続き記憶は比較的保たれている場合が多い(浦上,2016).そのため,適切な外的補助具を生活場面に汎化して,日常生活動作(ADL) を遂行できるように導くことが重要となる.今回,重度の記憶障害を呈したHSE患者に対し,スマートフォン(スマホ)を手掛かりにして予定に応じたADLが可能となったため報告する.なお,発表に関しての同意は本人と配偶者から得ている.
【症例紹介】 40代男性.妻と二人暮らし.金融会社の取締役として勤務していた.HSE発症後,第30病日に当院回復期リハビリ病棟へ入院となった.MRI画像では,両側側頭葉内側部の広範な損傷を認めた.入院時のWAIS-ⅢはVIQ 115,PlQ 134,FIQ 125.WMS-Rは言語性記憶52,視覚性記憶89,一般的記憶58,注意/集中力89,遅延再生50未満,10秒後の再認が不可能であり,重度の記憶障害が認められた.その他の高次脳機能や運動機能は問題なかった.FIMは運動81点,認知23点で,ADLには促しが必要だった.
【経過】前期(第31~60病日):外的補助具を活用して予定に応じた行動ができることを目標に,外的補助具の検討および訓練を行った.前医から使用していたメモリーノートを用いて予定の記録と確認を継続したが,ノートの存在自体を記銘することができず,自発的にノートを活用することは困難であった.
中期(第61~75病日):病前から使用していたスマホの操作は可能であったため,スマホに関連した手続き記憶は保たれていると考えられた.そこで,既存のリマインダー機能を用いて予定ごとに通知を設定し,その手掛かりを基に行動ができるよう試みた.開始当初は,通知対象が自分であると認識できなかったうえ,通知内容が抽象的であったため,通知に気付いても行動することができなかった.そのため紙面の予定表を導入し,具体的な内容を明記することで行動の開始を促した.リマインダーには,予定表の確認を促す通知を設定した.導入当初は,リマインダーの通知に気づいても予定表を確認するのみであったため,症例の反応を確認しながらリマインダーと予定表の表記を修正した.
後期(第76~95病日):リマインダーの通知で予定表を確認し,行動できる頻度が増えた.しかし,既存のリマインダーでは通知音が短いことや,ロック画面を解除すると表示された通知が消えてしまうため,通知に気づかず行動できない場面も散見された.そこで,通知音を長時間に調整することが可能であり,ロック画面を解除しても通知が表示される「通知メモ(Ankercast Inc.)」というリマインダーアプリを導入し,通知音や通知内容を修正して反復訓練を行った.自宅退院直前の第85病日におけるWAIS-ⅢやWMS-Rに著明な改善は認められなかった.一方,本アプリの通知を手掛かりに予定表を確認して,セルフケアやリハビリ時間の待ち合わせ,持ち物の準備など,予定に応じた行動が可能となった.FIMは運動85点,認知24点に改善した.
【考察】記憶障害患者が外的補助具を獲得するには個人差があるため,症例に応じた使用方法の検討が重要とされている(矢野川,2019) .今回,手続き記憶が保たれていたスマホを外的補助具として用いて,リマインダーアプリや予定表の提示内容に対する症例の反応や行動パターンを評価し,行動を促進する手掛かりとなるよう使用方法を工夫したことにより,予定に応じたADLが可能となった.重度の記憶障害を呈したHSE患者でも,誤りなし学習が促進されることで外的補助具の使用は定着し,ADLの自立度が改善することが示唆された.
【症例紹介】 40代男性.妻と二人暮らし.金融会社の取締役として勤務していた.HSE発症後,第30病日に当院回復期リハビリ病棟へ入院となった.MRI画像では,両側側頭葉内側部の広範な損傷を認めた.入院時のWAIS-ⅢはVIQ 115,PlQ 134,FIQ 125.WMS-Rは言語性記憶52,視覚性記憶89,一般的記憶58,注意/集中力89,遅延再生50未満,10秒後の再認が不可能であり,重度の記憶障害が認められた.その他の高次脳機能や運動機能は問題なかった.FIMは運動81点,認知23点で,ADLには促しが必要だった.
【経過】前期(第31~60病日):外的補助具を活用して予定に応じた行動ができることを目標に,外的補助具の検討および訓練を行った.前医から使用していたメモリーノートを用いて予定の記録と確認を継続したが,ノートの存在自体を記銘することができず,自発的にノートを活用することは困難であった.
中期(第61~75病日):病前から使用していたスマホの操作は可能であったため,スマホに関連した手続き記憶は保たれていると考えられた.そこで,既存のリマインダー機能を用いて予定ごとに通知を設定し,その手掛かりを基に行動ができるよう試みた.開始当初は,通知対象が自分であると認識できなかったうえ,通知内容が抽象的であったため,通知に気付いても行動することができなかった.そのため紙面の予定表を導入し,具体的な内容を明記することで行動の開始を促した.リマインダーには,予定表の確認を促す通知を設定した.導入当初は,リマインダーの通知に気づいても予定表を確認するのみであったため,症例の反応を確認しながらリマインダーと予定表の表記を修正した.
後期(第76~95病日):リマインダーの通知で予定表を確認し,行動できる頻度が増えた.しかし,既存のリマインダーでは通知音が短いことや,ロック画面を解除すると表示された通知が消えてしまうため,通知に気づかず行動できない場面も散見された.そこで,通知音を長時間に調整することが可能であり,ロック画面を解除しても通知が表示される「通知メモ(Ankercast Inc.)」というリマインダーアプリを導入し,通知音や通知内容を修正して反復訓練を行った.自宅退院直前の第85病日におけるWAIS-ⅢやWMS-Rに著明な改善は認められなかった.一方,本アプリの通知を手掛かりに予定表を確認して,セルフケアやリハビリ時間の待ち合わせ,持ち物の準備など,予定に応じた行動が可能となった.FIMは運動85点,認知24点に改善した.
【考察】記憶障害患者が外的補助具を獲得するには個人差があるため,症例に応じた使用方法の検討が重要とされている(矢野川,2019) .今回,手続き記憶が保たれていたスマホを外的補助具として用いて,リマインダーアプリや予定表の提示内容に対する症例の反応や行動パターンを評価し,行動を促進する手掛かりとなるよう使用方法を工夫したことにより,予定に応じたADLが可能となった.重度の記憶障害を呈したHSE患者でも,誤りなし学習が促進されることで外的補助具の使用は定着し,ADLの自立度が改善することが示唆された.