第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-6] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-6-4] 高次脳機能障害者と雇用者における就労継続に関する認識・価値観についての質的研究

飯塚 航平1, 大林 茂2, 八重田 淳3 (1.埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション部, 2.埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション科, 3.筑波大学人間総合学術院リハビリテーション科学学位プログラム)

【はじめに】高次脳機能障害者の就労支援において安定した雇用の継続は大きな課題の一つである.これまでの高次脳機能障害者の就労継続に関する研究は労働者である高次脳機能障害者の個人的要因や機能的要因に着目しているものが大部分を占めており,雇用される会社など環境的要因を検討しているものは少ない.また,労働者である高次脳機能障害者と雇用する会社や企業をまとめて,その相互性に関わる認識や価値観を明らかにした研究は見当たらない.そこで,本研究は働く高次脳機能障害者と雇用する会社の上司における就労継続に関する認識や価値観を探り,その違いを明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は働く高次脳機能障害者4名とその会社の上司4名とした.データ収集方法は,半構造化面接によるインタビューを個別で実施し,その内容を逐語録として作成した.分析方法は,「事例−コード・マトリックス」による質的データ分析技法(佐藤2008)を用いた.第1に,インタビューから得られた逐語録を精読し,就労継続の認識や価値観に関する語りを抽出した.第2に,語りの内容を要約し,分析の最小単位としての定性的コードをつける作業を行った.第3に,類似性のある定性的コードをより抽象度の高い焦点的コードとして整理した.第4に,縦軸を個別事例,横軸を焦点的コードとして対象者の発言内容をまとめた「事例–コード・マトリックス」を作成し,焦点的コード同士の関係性を考慮しながら概念的カテゴリーを抽出した.最後に概念的カテゴリーをもとに概念モデル化を図った.以下,焦点的コードを【】,定性的コードを[]で示す.なお,本研究は,筑波大学人間系研究倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】高次脳機能障害者は仕事内容に関して,【自己肯定感を高められる仕事】や【他者のためにする仕事】を重要視し,こういった仕事内容が,【ワークモチベーションの存在】へと繋がり,就労継続に重要という認識であった.一方で,雇用者が考える高次脳機能障害者は,[自分のペースでできる仕事]や【知識や経験を活かした仕事】というように,なるべく仕事の負担を減らすこと,適切に調整された仕事こそが就労継続に重要と認識しており,乖離が認められた.また,高次脳機能障害者は【外部支援の必要性】を認識していたが,他の内容と比べて重要という認識は薄い一方で,雇用者から見ると,高次脳機能障害者は【第三者による職場介入】や【医療機関との連携】など外部支援が特に重要という認識が見られた.合理的配慮について雇用者は[仕事内容の明確化]や[適切な就業場所への変更]など物理的・技術的配慮という認識が大部分を占めていた.一方で,高次脳機能障害者は物理的・技術的配慮だけでなく,[コミュニケーションの工夫]や[相談しやすい同僚の存在]など人的配慮の重要性を認識しており,乖離が認められた.
【考察】合理的配慮に関する乖離は配慮として不足している内容を表している可能性が高く,特に人的配慮という側面に関しても両者ですり合わせることで,就労継続の一助となり得ることが示唆された.一般的な就労支援では雇用者の認識に近い仕事の負担感軽減という視点が大きいと考えられるが,高次脳機能障害者の仕事に対する価値観にも着目し,ワークモチベーションを高められるような仕事内容への調整や仕掛け作りといった視点での支援も必要である.このような生活歴や価値観などを考慮した就労支援こそ,作業療法士の活躍が求められる.