第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-7] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PK-7-1] 初期に右被殻出血により重度半側空間無視を中心とした高次脳機能障害を呈した症例の復職に至るまでの経過

姫田 大樹1, 畠山 知大1, 大松 聡子2,3, 高村 優作3, 河島 則天3 (1.医療法人社団健育会竹川病院リハビリテーション部, 2.国立障害者リハビリテーションセンター病院リハビリテーション部再生医療リハビリテーション室, 3.国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部神経筋機能障害研究室)

【はじめに】半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect:以下,USN)は右半球損傷者の48~86%に出現する神経学的症候である.USNはリハビリテーションの転帰不良のリスク要因であるとともに,高次脳機能障害の合併は復職可否の要因として認識されており,生活自立や復職に対する支援が重要である.本演題では右被殻出血により重度USNを中心とした高次脳機能障害を呈した症例に対して病期および症状に応じた作業療法介入を実施し,復職に至った経過を報告する.
【症例紹介】対象は50歳代前半,右利き男性である.右被殻出血を発症し急性期病院に入院し, 16病日後に当院の回復期リハビリテーション病棟に転院した.入院時のJCSⅠ-3~Ⅱ-10,頭頸部は常に右回旋を呈し,左USNが顕著であった.簡単な指示理解は可能であるものの神経心理学的検査は実施困難であった.左上下肢はBRSⅡ-Ⅱ-Ⅱで重度運動麻痺と感覚障害を認め,FIM24点(運動13点,認知11点)であった(症例報告にあたり対象者に書面で同意を得た).
【目標】介入初期には症例本人からの希望は聴取できなかったが,家族からは自宅退院と復職の希望が聞かれたため,自宅退院と復職(地下鉄職員)を目標とした.
【経過と介入】第Ⅰ期(25-77病日:覚醒・注意の底上げ):25病日時点でBIT通常検査62点,行動検査30点と重度左USNを認めた.生活場面でも左側からの声掛けに対する反応遅延や整容・食事時の左空間の見落としが顕著であった.課題実施時には閉眼することが多く,注意の持続が困難であるなど覚醒や全般的注意の低下の影響が大きいものと推察された.そこで覚醒・注意を高めるために立位での視覚探索課題を行うなどの工夫を行った.56病日目にはJCSⅠ-2,MMSE26点,BIT通常検査122点,行動検査74点と検査成績の向上を認めた.  第Ⅱ期(78-153病日:興味・関心や過去の経験に基づいた介入):122病日目にはBRS Ⅳ-Ⅳ-Ⅴ,FIM101点(運動79点,認知22点)とさらなる改善を認め,病棟内移動が独歩自立となった.BIT通常検査142点,行動検査76点と得点増加を示したものの,模写課題や写真課題では依然として左側の見落としを認め,生活場面でも着衣動作や屋外歩行時の左側空間の見落としを認めた.さらに注意持続の困難や苦手なことに対する負の感情表出が生じていた.そこで仕事や趣味に関する症例の興味・関心,過去の経験を手掛かりとした介入を試みたところ,左空間の事象に関する情報想起や探索が可能となり,自身の知識を付加して説明するなどポジティブな感情表出が見られたため,同様の課題を継続的に実施した.  第Ⅲ期(154-232病日:退院から復職):154病日目にはFIM107点(運動85点,認知22点)となり,自宅退院となった.その後204病日目から週2-3回の頻度で出勤が開始となり,屋外歩行や公共交通機関の利用が自立になった.一方,易疲労性による作業効率の低下や注意の切り替え困難が残存していたため,職場との情報共有を取りつつ同僚職員や上司との関わりを含めた支援・介入を行った.作業速度やコミュニケーション等の困難さは残存したものの段階的に復職を進め,232病日目に支援終了となった.
【考察】今回, 病期に応じてUSNの構成要素を考慮した病態分析と介入を行った.本人の興味・関心, 過去の経験に基づいた介入による左空間の事象に対する気づきや認識を促したこと,職場との情報共有を行いながら支援を進めたことが復職に繋がった要因であると考えられた.