第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-7] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PK-7-2] 本人のニーズに沿った達成可能な目標から解決し,家族のニーズであったAPDLの獲得もできた脳梗塞症例

浦瀬 康太, 福本 圭司, 武田 真也, 河野 佑亮 (市立宇和島病院リハビリテーション科)

【はじめに】今回,脳梗塞を発症し,その後の入院生活での失敗体験や易疲労性で退院後臥床傾向となり,APDL低下が生じた症例を担当した.失敗体験に似た達成可能な目標から解決し,家族のニーズであったAPDLの獲得もできた症例を経験したので報告する.なお,今回の発表に関して本人・家族の同意を得ている.
【症例紹介】60歳代女性.現病歴はZ日に仕事から帰宅しようとバイクに乗り家に戻ったが,いつもと違う道を通ったりしており,はっきりと記憶がない.Z+3日に当院紹介となり頭部MRIにて右脳梁膨大部,右後頭葉-側頭葉,右視床に病変を認め,アテローム血栓性脳梗塞と診断となり入院となる.入院後,目のまぶしさの訴えあり,症候性てんかんとして,抗てんかん薬内服開始となる.運動麻痺・感覚障害はなく,左半側空間無視,左同名半盲,注意力低下,地誌的見当識障害は残存し,Z+22日に回復期病院転院.本人希望で2週間で回復期病院を退院.発症2か月時から当院外来作業療法開始となった.回復期からは訓練場面でAPDLは遂行可能であったと情報あり.
【初期評価】自宅でのADLはすべて可能だが,動くとしんどくなるので,朝起きてからはほぼソファーで横になって過ごしている.夜間の不眠・食欲不振はなく,薬物療法の必要なうつ症状には至っていないと推測された.急性期病院・回復期病院でも病棟内で迷子になったエピソードあり,退院後も外出しないようになっていた.脳卒中後の易疲労性の影響もあると考えられるが,握力(急性期入院時→外来開始時)右23.1㎏→16.9㎏,左20.1㎏→18.1㎏と低下し,廃用症状が起きており,体力低下により動くとしんどくなるという症状が生じていると可能性が考えられた.
夫のニーズは家事ができるようになって欲しい.寝てばかりでどんどん悪くなるのではないかと心配発言あり.本人のニーズは動くとしんどくなるので動きたくない.近所に住んでいる娘に子が生まれて大変なので,生まれた子の上の子の面倒をみたいと発言あり.
合意目標として,迷わずに娘さんの家まで行く事ができること,体力を回復し家事が少しずつできるようになることとした.
【介入】発症2か月~6か月の4か月間,週に2回実施.介入内容はgoogleのストリートビューを使い,娘さんの家まで行く模擬練習,自主訓練として夫の監視下で娘さんの家まで散歩をするように指導を行った.また体力の回復に対して計算課題,筋力トレーニング,自転車エルゴメーター,ストレッチ,休み休み行える範囲で家事を行うように指導した.
【結果】外来開始時から外来終了時の変化として,握力:右16.9㎏→21.1㎏,左18.1㎏→19.0㎏,TMT-A:144秒→88秒,TMT-B:189秒→171秒,Rey-Osterrieth複雑図形:模写34点→33点,3分後再生0点→11点,行動性無視検査の通常検査の合計:125点→142点,APDLで食事の用意:ご飯を炊くのみ→おかず一品作る,食事の片付け:流しにもっていく→調理具・食器を洗う,洗濯:畳むのみ→干す・畳むが行える,掃除や整理:してない→自動掃除機の掃除をする,外出:してない→夫と娘の家に行く,趣味(園芸):していない→落ち葉拾いをする.本人のニーズの娘さんの家まで行く事は夫と一緒に行うようになった.
【考察】 googleのストリートビューを使った評価・訓練では家から娘さんの家までは迷わずに行けた.慣れた環境で地誌的見当識障害が生じなかった可能性や外来開始までの2か月で自然回復したものと考えられた.左半側空間無視はあったため,安全のため夫と一緒ではあるが,本人のニーズの娘さん家に行く事を目標とし達成できたことで,本人も自信がつき,活動量が増え,APDLが改善していったと考えられた.