第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-7] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-7-3] アルツハイマー病型認知症者の音声の特性についての研究

能登 真一1, 村井 千賀2, 林 怜子2, 永田 亮3, 関山 佑一3 (1.新潟医療福祉大学, 2.石川県立こころの病院, 3.みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)

【序論】
アルツハイマー病は認知症全体の中でももっとも多い疾患であり,その早期発見の方法や的確な評価方法,治療の手がかりなどが日々検討されている.現在のところ,ADASを用いた鑑別診断の信頼性と妥当性が高く評価されているが,早期発見が重要であることには変わりなく,より簡便な方法が求められている.本研究ではアルツハイマー病型認知症者の音声に着目して,音声信号解析によりその特性を健常高齢者のものと比較した.
【方法】
対象はK病院に入院もしく外来で作業療法を受けているアルツハイマー病型認知症者74名とS有料法人ホームに入所する健常高齢者76名である.対象者にはMMSEを実施し,その評価場面の音声を15~20分間録音した.まず解析のために,録音した音声データからセラピストの音声を除外し,対象者本人の音声区間だけを抽出する作業を行った.さらにその音声データに対して信号処理を行い,スペクトログラムやスペクトル包絡などの特徴を解析した.本研究の調査は2022年4月から2023年2月まで実施されたが,本発表では特徴的な各群2名ずつの解析結果を報告する.なお,本研究は新潟医療福祉大学倫理審査委員会の承認を受けて実施された(18762-211126).
【結果】
音声信号解析のパイロットスタディとして,特徴的なアルツハイマー病型認知症者2名(93歳女性Aさん,81歳男性Bさん)と,健常高齢者2名(80歳女性Cさん,82歳女性Dさん)を選んだ.MMSEの結果はAさんとBさんはそれぞれ4点,13点であり,健常高齢者はともに30点であった.解析の結果,パワースペクトルの歪度(正規分布からどの程度歪んでいるか)と尖度(正規分布からどの程度尖っているか)に差があることが発見された.つまり,アルツハイマー病型認知症者の歪度の標準偏差はAさんとBさんがともに0.66であったのに対して,Cさんでは0.55,Dさんでは0.28と小さくなった.また尖度の標準偏差についても,AさんとBさんがともに4.30であったのに対して,Cさんでは3.64,Dさんでは1.36と小さくなった.
【結論】
アルツハイマー病型認知症者と健常高齢者の音声を解析した結果,パワースペクトルの歪度と尖度の標準偏差に差のある可能性が示された.今後は本研究で示された特性が一般化可能かを検証するとともに,AI(Artificial Intelligence:人工知能)を用いたアルツハイマー病の早期発見に係る応用可能性を検討していく予定である.