第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-7] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PK-7-4] 認知症の行動・心理症状に対する園芸活動の実践

小間坂 友祐, 中本 光, 森口 奈穂子 (社会医療法人 生長会 ベルピアノ病院リハビリテーション室)

【目的】
幻視の強い認知症高齢者に対して行動・心理症状(以下BPSD)の改善を促し,それと同時にADLの積極的な参加を促すことで自己効力感を再獲得することを目的に園芸活動を開始した.介入経過の中で意欲やBPSD・自己効力感の変化を認めた症例について報告する.
【症例紹介】80代男性 X-1年症候性てんかんで当院入院となり自宅退院された.X年Y-1月徐々にADL低下していたがCOVID-19を発症し,急性期病院に入院.Y月当院に転院となる.入院当初せん妄状態にあり日中にも幻視・幻聴がみられ,興奮しており昼夜とも不眠状態であった.今後,施設入所予定であり生活リズムの改善・ADLの介助量軽減目的で介入開始となる.
【作業療法評価】ベッド上で不活動な状態でADL面ではFIM57点と中等度介助以上必要であった.排泄は尿便意曖昧でオムツ内失禁されていた.移乗能力は中等度介助,食事はセッティングのみで実施可能であった.精神機能面はMMSE:16点FAB:9点を認め,幻視により夜間は暴言など抑制困難な場面も見られていた.淡路式園芸療法評価表(以下ARTAS)は10点Vitality Indexは2点.認知症障害尺度(以下BDB-13)は28点であった.
【介入経過と結果】
介入初期はBPSDが強く,病棟内での生活も不安・不眠・幻視・暴言が多く不安定な状態であった.訓練時はBPSDみられず,集中して訓練実施する場面がみられた.しかし担当OT以外の訓練の際には離床拒否があった.また表情や活気は乏しく,受動的な様子が伺えた.前回入院時の園芸の様子を写真で確認しながら回想し,野菜の栽培を継続する目標を立てた.全身持久力の低下や作業工程の簡略化を考慮し活動内容は室内でのかいわれ大根の水耕栽培を選択した.
栽培が進み収穫の時期には,野菜の水やりやリハビリの訓練に関しても積極的に参加するようになった.面会の際にも家族に対して園芸の事やリハビリの出来事を話すことが見られ,いきいきとした表情を見せるようになってきた.幻視の症状も徐々に見られなくなり不眠や暴言なども見られなくなった.また他者に自身が育てた野菜を共有するなど訓練中にも他の園芸参加者とのコミュニケーションを図る場面が見られるようになった.自身の栽培している野菜に対する正のフィードバックを受けることがあり,安心して生活できる場所となりつつあった.ADLではFIMが63点と移乗能力・排泄能力などの改善を認め自身で尿便意を訴える事もみられるようになってきた.精神機能面の評価ではMMSE14点FAB6点と低下を認めたがARTASは17点,Vitality Indexは7点 BDB-13は22点と著明な意欲やBPSDの改善を認めた.
【考察】前川らは「広義での園芸療法はアクティビティとして,人生の質の向上を目指す活動である.できる活動の拡大は,生きがいに満ちた生活再建の可能性を見出すことができる.園芸作業を通じて植物とふれあう園芸療法は,認知症の人の行動心理面に働きかけることができる.」としている.また,豊田らは「育てるという命との関わりが積極的な活動の行為を生み出す」としている.本症例も園芸活動を通じてBPSDが軽減し生活リズムの改善や積極的なADLへの参加が見られるようになった事や野菜に対して正のフィードバックを受けることによって自己効力感の獲得に貢献できたと考える.また精神機能面では中核症状に対しては著効を認めなかったがBPSDの改善に対して園芸療法が有効である可能性が示唆された.