[PK-7-6] 就労移行支援において,自己認識の変化に焦点を当てることで有効な補償手段の獲得につながった脳損傷の1症例
【はじめに】
自己認識の低下は脳損傷の後遺障害の1つである.自己認識の低下を呈していると補償手段を十分に活用できなくなることから,職業復帰に負の影響を及ぼすと言われている(Toglia, 2000).Crossonらは,障害の気づきには階層があり,気づきの程度に応じて利用可能な補償手段が決まってくると報告している.今回,就労移行支援を利用する脳損傷者に対して,自己認識の程度に応じた補償手段の介入を行ったところ,自己認識の向上とともに有効な補償手段の獲得につながった経験をしたため経過を報告する.本報告に際し,症例に書面で説明し,同意を得た.
【事例紹介】
50歳代男性,交通事故により受傷し,頭部外傷の診断を受けた.受傷から3ヶ月後に回復期病院から自宅退院し,受傷から6ヶ月後に,復職目的で当センターの就労移行支援を利用開始となった.利用開始時の神経心理学的所見では,WAIS-Ⅳ:全検査IQ96,RBMT:プロフィール点15/24,スクリーニング点7/12,慶応版WCST:CA1/PEN26/DMS0であり,記憶障害,遂行機能障害を認めた.日本語版Self-Regulation Skills interview(SRSI)は,成分1(問題の気づき):6.5,成分2(変化への動機付け):10,成分3(戦略の気づき):7.7であった.生活上では,診察や面談の日時を忘れたり,書類を提出したかどうかを忘れる出来事がみられていた.
【経過】
初期評価時には「記憶低下の自覚はあるが,生活上では支障がないと思う」と回答し,体験的気づきおよび予測的気づきが得られていなかった.補償手段の必要性を感じられていなかったことから,外的補償手段からの導入が有効と考え,1日のスケジュールや訓練記録,To doリストを1冊にまとめた日報ファイルの使用を導入した.また,忘れのエピソードに対してフィードバックを行いながら,メモを書く行動を促した.利用4か月後には,「予定の変更を忘れるかもしれない.メモは効果があると思う」と,補償手段への認識に変化があり,予測的気づきを持つ発言が聞かれた.日報ファイルには,内容ごとにメモを残す習慣がつき,状況に合わせた補償手段の活用が可能となった.利用5か月後からは,次の段階として具体的なメモの書き方の練習を開始し,ポイントを明確にして書くようアドバイスした.また聞いた内容とメモに相違がないかを他者と確認をとるよう促した.利用7ヶ月後に開始した職場実習では,日報ファイルを活用し自主的に業務の記録を残すことが可能であった.また職場の上司に質問をする際,メモを提示しながら確認をとる場面がみられ,予測的な補償手段の活用が認められた.症例は3週間の実習を終え,訓練開始から8か月後に復職となった.
【結果】
SRSI(開始時→4か月後→8か月後)では,成分1:6.5→4.5→4.5,成分2:10→10→8,成分3:7.7→4.3→3と段階的に自己認識の向上を認め,終了時には「メモは効果的で,日報ファイルがなければ生活が回らなくなるだろう」と補償手段の必要性を感じた発言が聞かれた.生活上および仕事上で,補償手段を自主的に活用する場面がみられ,補償手段の活用方法の広がりが認められた.
【考察】
今回,症例の自己認識の程度を評価した上で,有効な補償手段の提案とフィードバックを段階的に行った. Crossonらは,自己認識の低下の程度と補償手段との関係を理解することは,リハビリの効率を高めると報告している.本症例は,補償手段によって忘れを補えた成功体験から,補償手段に対する認識の変化とともに,より効果的な補償手段の活用につながったと考える.
自己認識の低下は脳損傷の後遺障害の1つである.自己認識の低下を呈していると補償手段を十分に活用できなくなることから,職業復帰に負の影響を及ぼすと言われている(Toglia, 2000).Crossonらは,障害の気づきには階層があり,気づきの程度に応じて利用可能な補償手段が決まってくると報告している.今回,就労移行支援を利用する脳損傷者に対して,自己認識の程度に応じた補償手段の介入を行ったところ,自己認識の向上とともに有効な補償手段の獲得につながった経験をしたため経過を報告する.本報告に際し,症例に書面で説明し,同意を得た.
【事例紹介】
50歳代男性,交通事故により受傷し,頭部外傷の診断を受けた.受傷から3ヶ月後に回復期病院から自宅退院し,受傷から6ヶ月後に,復職目的で当センターの就労移行支援を利用開始となった.利用開始時の神経心理学的所見では,WAIS-Ⅳ:全検査IQ96,RBMT:プロフィール点15/24,スクリーニング点7/12,慶応版WCST:CA1/PEN26/DMS0であり,記憶障害,遂行機能障害を認めた.日本語版Self-Regulation Skills interview(SRSI)は,成分1(問題の気づき):6.5,成分2(変化への動機付け):10,成分3(戦略の気づき):7.7であった.生活上では,診察や面談の日時を忘れたり,書類を提出したかどうかを忘れる出来事がみられていた.
【経過】
初期評価時には「記憶低下の自覚はあるが,生活上では支障がないと思う」と回答し,体験的気づきおよび予測的気づきが得られていなかった.補償手段の必要性を感じられていなかったことから,外的補償手段からの導入が有効と考え,1日のスケジュールや訓練記録,To doリストを1冊にまとめた日報ファイルの使用を導入した.また,忘れのエピソードに対してフィードバックを行いながら,メモを書く行動を促した.利用4か月後には,「予定の変更を忘れるかもしれない.メモは効果があると思う」と,補償手段への認識に変化があり,予測的気づきを持つ発言が聞かれた.日報ファイルには,内容ごとにメモを残す習慣がつき,状況に合わせた補償手段の活用が可能となった.利用5か月後からは,次の段階として具体的なメモの書き方の練習を開始し,ポイントを明確にして書くようアドバイスした.また聞いた内容とメモに相違がないかを他者と確認をとるよう促した.利用7ヶ月後に開始した職場実習では,日報ファイルを活用し自主的に業務の記録を残すことが可能であった.また職場の上司に質問をする際,メモを提示しながら確認をとる場面がみられ,予測的な補償手段の活用が認められた.症例は3週間の実習を終え,訓練開始から8か月後に復職となった.
【結果】
SRSI(開始時→4か月後→8か月後)では,成分1:6.5→4.5→4.5,成分2:10→10→8,成分3:7.7→4.3→3と段階的に自己認識の向上を認め,終了時には「メモは効果的で,日報ファイルがなければ生活が回らなくなるだろう」と補償手段の必要性を感じた発言が聞かれた.生活上および仕事上で,補償手段を自主的に活用する場面がみられ,補償手段の活用方法の広がりが認められた.
【考察】
今回,症例の自己認識の程度を評価した上で,有効な補償手段の提案とフィードバックを段階的に行った. Crossonらは,自己認識の低下の程度と補償手段との関係を理解することは,リハビリの効率を高めると報告している.本症例は,補償手段によって忘れを補えた成功体験から,補償手段に対する認識の変化とともに,より効果的な補償手段の活用につながったと考える.