第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-8-1] 若年性軽度認知障害を呈した方の自動車運転再開支援

原 大地 (前橋赤十字病院リハビリテーション科部)

【はじめに】
 2001年6月に初めて「認知症」が免許更新時に一定の制限を受けることが明文化され(道路交通法第103条第1項),介護保険法第5条の2に規定される認知症(アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症,脳血管性認知症)の診断がつくと,自動車運転は実質的に禁止となる.一方で,軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment以下;MCI)は半年に1度,再評価をしながら運転の継続が可能である.
 今回,若年でMCIを呈した方の自動車運転再開支援を経験したため報告する.なお,今回の報告に関して個人情報に十分注意し,本人から書面で同意を得た.
【事例提示】
 事例は50代男性.X-3年,職務での電話対応の際に簡単な内容の会話を聞き返すようになった.その後,上司との会話がかみ合わない,電話の相手の話が全く同じ内容に聞こえるなどの症状が続き,業務継続が困難となった.若年性アルツハイマー型認知症と診断され,免許停止処分となった.X-2年,公安員会提出用の診断書作成目的に当院受診.MCIの診断となり,以後,半年間隔で神経心理学的検査を行った.X年,脳梗塞を発症し右上下肢運動麻痺が出現.半年前と比較し,全般的な認知機能低下もあり,指定自動車教習所で実車評価を行った.
【実車前評価】
 身体機能面では右上下肢軽度運動麻痺あり.感覚障害なし.独歩自立.自宅では独居(キーパーソンは兄)で食事は全て外食か弁当,自炊は一切しない.買い物や洗濯,金銭管理は自分で可能.仕事は配置転換し継続(主に社内の清掃業務).職場までは自転車とバスで移動.認知機能面ではMMSE-J:26点(半年前30点),MoCA-J:21点(半年前27点)で立方体の模写困難,時計描画困難で視空間認知の低下が目立った.注意機能はTMT-J part A:52秒(半年前35秒),B:80秒(半年前103秒)で健常な50歳代と比して注意の持続,切り替えともに低下を認めた.J-SDSAは運転適性あり.簡易自動車シミュレーターでも適性ありの判定であった.右上下肢の運動麻痺がハンドル操作,ペダル操作に干渉する様子は観察されなかった.
【実車評価・訓練】
 指定自動車教習所で,MT車の普通車で実施した.右上下肢の運動麻痺はハンドル操作,ペダル操作に支障なく操作可能であった.1回目,2回目の実車評価では,教習所の場内において一時停止不履行あり,走行位置は安定せずにセンターライン寄りであった.指導員の助言後に一時的に修正できたが,時間経過とともに走行位置は不安定になった.一般道路では停止線のない交差点で一時停止し,指導員が不要と伝えても修正が困難であった.感応式信号機がある交差点では停止線のかなり手前で停止し,信号が反応せず.車線変更では追い越し車線の後続車への注意が乏しく,指導員から補助ブレーキを踏まれた.評価後,指導員の指摘事項を自発的に記録し,内省している様子が観察された.3回目の実車評価では事前に今までの指摘事項を再確認した.一時停止不履行はなく,走行位置も良好であった.運転再開は可能なレベルと判断し,脳卒中用,認知症用の診断書を作成した.
【考察】
 認知症の原因疾患によっても運転継続の危険性や事故のリスクが異なる(上村ら:2007,Fujito et al:2016).MCIでも運転能力に影響があるのか否か,またどのような機能が運転能力や事故につながるのか,慎重に検討していく必要がある.また,本事例はMCIの診断後に脳梗塞を起こしており,問題となった運転行動がMCIによるものか脳梗塞によるものかは議論の余地がある.