第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-8-2] 若年者を対象とした活動の質評価法(A-QOA)と既存評価との関連性の分析

小川 真寛1, 西田 征治2, 坂本 千晶2, 白井 はる奈3 (1.神戸学院大学, 2.県立広島大学, 3.佛教大学)

【緒言】 作業療法の実践において,認知症高齢者等で自分の意思を上手く表現できない対象者に対して,OTは何らかの活動を通じて働きかけ,その反応を観察から分析し活動が本人にとって意味があるかを検討することが必要である.我々はこの観察視点についての評価として,活動の質評価法(Assessment of Quality of Activities; A-QOA)を開発してきた.A-QOAで評価する活動の質は,「活動と対象者の結びつきの強さ」と定義され,活動の遂行や言語・感情表出,社会交流等の複合的な要素の観察から判断される概念である.A-QOAは,21項目の観察視点から構成され各項目を4段階で評定する.しかし,このA-QOAの評価概念は新たに発展させてきたため,その概念が既存評価に対してどのような関係を示すか十分な根拠がない.そのため,他の既存評価とA-QOAの関連性について調べることがA-QOAの評価する概念を明らかにし有益でないかと考えた.
 そこで本研究の目的は,若年者を対象としたトランプ活動を通しA-QOAと既存評価の関連性を分析することとした.本研究は,所属機関の倫理審査の承認を受けて実施した.
【方法】 対象者は,18歳以上の若年健常者45名とした.倫理的配慮として,調査前に対象者に研究の目的や方法,個人情報管理等に関して書面および口頭による説明をし,同意を得た.
 評価内容はA-QOAとその関連性を見る既存評価として,感情表出,気分およびストレスの3項目の評価として,それぞれAI表情分析ソフト(心sensor),POMS2短縮版および唾液アミラーゼを選択した.
 対象者には2人ペアで5~10分程度トランプを行ってもらい,トランプ活動前後にPOMS2短縮版を実施し,唾液アミラーゼの分析のための唾液摂取を行った.また,トランプ活動中の様子を動画で撮影し,A-QOAとAI表情分析ソフトで分析した.A-QOAと既存評価との関連性の検討のため,A-QOAのprobit値(代表値)および21の下位項目と既存評価等の関係をSpearmanの順位相関係数にて分析した.
【結果】 対象者は45名で,男性24名,女性21名,平均年齢は21.4±0.8歳(平均値±SD)であった. A-QOAのprobit値と既存評価との相関分析の結果,心sensorの喜び(ρ=0.37)と驚き(ρ=0.33)に弱い相関を認めた.A-QOAの下位項目の「笑顔がみられる」と心sensorの喜びとの間には中程度の有意な相関(ρ=0.64)がみられた一方,その他の下位項目は相関が低いかあるいは認められなかった.
 既存評価間での相関分析の結果,心sensorとPOMS2短縮版の一部項目,軽蔑と「抑うつ-落ち込み」(ρ=0.37),恐怖と「活気-活力」(ρ=0.35),驚きと「活気-活力」(ρ=0.39)で有意な相関が認められた.心sensorの嫌悪と唾液アミラーゼの相関(ρ=0.40)も確認された.
【考察】 A-QOAのprobit値と心sensorの喜びと驚きに弱い相関,さらにはA-QOAの「笑顔がみられる」の項目とで中等度の有意な関係がみられた一方で,他の項目は相関がみられなかった.そのことから,A-QOAはAI表情分析ソフトでは測れない活動への関りや他者との関りの評価を含むことが特徴として言及できる.
 また今回の検討では,感情のネガティブな面とポジティブな面の指標同士で相関が見られた.これらのことから,活動に伴う評価としてポジティブな感情の側面とネガティブな感情の側面は分けて検討していく必要性が示唆され,この結果は作業療法にとって活動に関わる評価の特性を考える重要な知見と考える.
 本研究では,若年者を対象としたトランプだけの検討のみであり,その他の活動や対象者でも類似の検討が必要であろう.その結果,A-QOAの評価としての特性の幅広い把握につながるであろう.