第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-8-3] 失行の影響によりADLに難渋した症例の評価と介入について

木村 愛1, 渕 雅子2 (1.医療法人相生会福岡みらい病院リハビリテーション科, 2.九州栄養福祉大学大学院健康科学研究科)

【はじめに】
今回,くも膜下出血により超皮質性感覚失語と失行症を呈した症例を回復期リハ病棟で担当した.多くのADLに失行の影響がみられ,その影響について評価,観察を行い,直接介入することで改善を認めたため報告する.本報告は当院承認を得て,対象者,家族へ目的と内容を説明し同意を得た.
【対象】
40歳代男性.くも膜下出血,脳室内穿破による閉塞性水頭症と診断.画像所見では,左側脳室体部~後角に高吸収域を認め,54病日目に当院へ入院.標準失語症検査(SLTA)は,「聞く」5/40点,「話す」は復唱のみ正答,その他項目は0点であった,標準高次動作性検査(SPTA)は,口頭命令では首をかしげほとんどの項目は無反応だったが,お茶入れのみ錯行為を認めた.模倣命令は,開始の遅延や拙劣さはあるも全て可能だった.
【ADLの問題点】
食事は,道具を使わず手づかみで食べ始めたが,箸を手渡すと使用することが出来た.途中,自らスプーンを手に取り,箸とスプーンを同時に持ち食事を続けた.歯磨きは,歯ブラシを手に取ることが出来ないため手渡すも困惑し,歯磨き粉を手渡したがチューブを直接口へ運んだ.歯ブラシに歯磨き粉をつけ口へ誘導するとブラッシングは可能も自ら止めることが出来なかった.口ゆすぎは,自ら水を汲めず,水を汲んだコップを手渡し口まで誘導すると,口に含むが吐き出すことは出来なかった.更衣は,衣服を渡すと混乱なく着脱できた.排泄は,尿意なく時間誘導で行ったが,移乗は困惑し,下衣操作は模倣にて動作開始するもすぐに下衣を上げた.
【介入・経過】
ADL場面に直接介入し,誤りなし学習を主に行為が自ら表出するよう道具の手渡しや動作の誘導を行い,段階的に模倣,声かけへと変更した.食事は,スプーンの手渡しにて自力摂取を促し,箸へと移行した.また看護師と情報共有し3週で自立へ至った.歯磨きは,両手に歯ブラシと歯磨き粉を渡し,歯磨き粉をつけ口まで誘導するとブラッシングは可能で,声かけで停止ができた.口ゆすぎは,水を汲んだコップを手渡し口まで誘導し,吐き出しは声かけで行った.3週後には,道具を自ら手に持ち,歯ブラシに歯磨き粉をつけることが可能となったが,時にチューブを直接口へ運ぶことがあるため見守りが必要であった.また,歯磨きから口ゆすぎへの切り替えは声かけが必要であった.排泄は,移乗は模倣で可能となり,下衣やペーパー操作は誘導で行った.尿意の訴えを立ち上がりで知らせることが増え,その際にトイレへ行くと移乗や下衣操作は声かけで可能となったが,清拭は模倣が必要だった.
【考察】
検査場面は,口頭命令では困難も模倣命令は全ての項目が可能であった.しかし,実際のADL場面は,道具の選択が出来ず,系列動作では混乱や保続がみられ,失行の影響が強かった.食事は自立に至ったが,歯磨きには時間を要した.その背景は,食事は単一物品の使用であり,一旦道具を選択すると再帰性動作の繰り返しである.歯磨きではブラッシングという再帰性動作は可能であったものの,複数物品の系列動作としての外向性動作や歯磨きと口ゆすぎという異なる目的の動作の切り替えなどで混乱がみられたと考える.系列動作においては正しい道具の使用を動作誘導し,動作の切り替えにおいてはコップを視覚的に提示することで目的に合った行為の表出がみられたと考える.排泄は,尿意の表出に合わせて誘導すると混乱なく行うことが可能であったことから,尿意という合目的な動作は成立すると考える.今回,症例が混乱せず目的に合った動作が誘発されるよう道具の選択や操作,誘導を行い,段階的に介入を減らすことで誤りなし学習が行えたと考える.