第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-8-4] 失行症に対しエラーレス訓練で食事動作が可能になった症例

福沢 滉太 (社会福祉法人 京都済生会病院リハビリテーション科)

【はじめに】今回,左脳出血により観念失行を呈した70代女性を担当した.症例は日常生活動作(以下,ADL)で失行症状を認め,特に食事動作で箸使用が困難であった.そこで箸の把持動作や箸操作をエラーレス訓練で行った結果,食事動作時の失行症状軽減を認めたため報告する.尚,本発表についてご本人に説明し同意を得ている.
【症例紹介】70代女性,右利き,診断名は左脳出血(左角回,左下頭頂小葉). 既往歴は右大腿骨頸部骨折,甲状腺機能低下症,認知症.病前は夫と長女と同居,ADLは自立,家事動作も行っていた.要介護1で通所リハビリを利用していた.現病歴は右上肢に失行症状が出現し当院受診,頭部CTで左脳出血認めたが夫の援助あり,自宅生活可能であったため,外来リハビリでの対応となった.意識レベルは清明.コミュニケーション能力は,失語症を認めたが表出,理解は各検査可能な程度は保たれていた.身体機能面はBRST右上肢Ⅵ,右手指Ⅵ,右下肢Ⅵ,軽度感覚低下を認めた.徒手筋力検査(以下,MMT)両上下肢4/4,体幹4/4.基本動作は自立レベル.簡易上肢機能検査(以下,STEF)は右61/左76点.認知機能はMMSE15/30点,FAB7/18点,Kohs IQ44であった.高次脳機能は失語,失行,構成障害,ゲルストマン症候群を認めた.標準高次動作性検査(以下,SPTA)は,誤反応得点で98/186点で観念失行・観念運動失行・肢節運動失行を両手で認めた. ADLはFIM運動項目68/91点,認知項目18/35点,合計86/126点であった.食事動作はFIM5/7点であった.食事は普通箸で摂取していた.模擬動作評価で,箸の把持が拙劣で手の構えが不十分であった.また箸の把持する位置がズレ,動作が拙劣であった.食物運搬動作は,箸先の開閉動作が出来ず,スプーンのようにすくう動作や右上肢の代償動作が起こるなど空間的エラーも生じた.実際に右手の使用が困難で手掴みで食べることがあり,本人は食事を食べることを億劫に感じていた.また夫もなぜ食べられないかが理解出来ず,困惑していた.
【介入方針】OT目標は,右手でお箸を使用し摂取可能,及び日常物品使用での失行症状の軽減とした.食事動作訓練は,介助で正しく箸の把持を行った.また,手を添え箸の開閉を行い,物を掴む離す動作も反復して行った.動作時に,右上肢の代償や空間的エラーが起こらないように徒手的に誘導した.OT訓練は外来リハビリを週2回,1回2単位(40分)で実施した.
【結果】身体機能面はSTEFが右61点から70点と向上した.運動麻痺,感覚,筋力の変化はなかった.認知機能はMMSE16点から18点,FAB7点から8点と向上した.Kohsは変化なかった.高次脳機能はSPTAは98点から55点と減少し症状の改善を認めた.ADLはFIMの運動項目68点から82点,認知項目18点から22点と改善し,合計104点と向上した.食事動作は5/7点から7/7点と向上し普通箸で摂取が可能となった.また,症例は箸でご飯を食べることができて嬉しいと発言を認め,夫も食事で困ることが無くなったと発言を認めた.
【考察】今回,脳出血により失行を呈した症例を経験した.失行に対するアプローチは,言語指示よりも視覚情報や体性感覚情報を繰り返しエラーレスに実施することが有効であると考える.また,ADL訓練は実際の生活場面で同一環境で行うことが有効だとされている.症例は実際の生活場面での介入に対し困難であった.しかし,ADL模擬動作訓練をエラーレス訓練で行うことでも症状の改善が可能であると考えられる.