第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-8-5] 社会的行動障害に対してセルフマネジメントへ繋がった事例

倉岡 咲季, 齊藤 雄一郎, 有働 克也 (イムス札幌内科リハビリテーション病院)

【はじめに】今回,不安や不満から対人交流時に暴言がみられるクライアント(以下,CL)に対し,環境調整,ポジティブな行動介入と支援(以下,PBIS),行動変容療法を用いて介入した結果,易怒性に対してセルフマネジメントが可能となった.本報告の目的は感情コントロールが困難なCLに対し,環境調整,PBIS,行動変容療法を利用した介入の有用性を検討する事である.なお,発表に際して本人と家族の同意を得た.
【事例紹介】A氏は60歳代の男性である.X年Y月Z日,心原性脳塞栓症(前頭葉~左頭頂葉)で B病院入院しMRIにて脳梗塞,脳底動脈梗塞(小脳)あり血栓回収療法施行,Z+31日リハビリ目的で当院入院となる.
【作業療法評価】A氏は入院による制限された生活を送る事や,スタッフへの強い不満など,現状との乖離から起こるストレスが高次脳機能障害の抑制障害や感覚性失語により顕著な易怒性となって表出され,対人交流に支障が出ていると推察した.ADLは概ね見守りで可能だが入浴は拒否あり未実施,身体機能は軽度の麻痺と感覚性失語を認め,FAB=4点,コミュニケーションと交流技能評価(以下,ACIS)は身体性12/24点,情報の交換18/36点,関係性7/20点であり関係性の項目にて特に減点を認めた.行動変容ステージ(以下,ステージ)は無関心期であり退院後の生活で易怒性が問題となる事が予想された.
【介入方針】円滑な対人交流の獲得に向け,怒りへのセルフマネジメントが可能となる事に焦点を当て介入する事とした.
【経過】X年Y+1月:初期(環境調整・PBIS):全スタッフに対し易怒的となっていた.A氏の怒りの原因を聴取すると,事前の予告がない検査が多いことや自宅へ帰れないことが原因と判明した.その為,病棟スタッフへA氏との関わり方として事前に検査を予告するよう共有した.OTではA氏のストレスの原因や怒りへの固執を避け,正のフィードバック(以下,FB)での関りを続けた結果,徐々に担当者に冗談を言うなどの変化があった.ステージは関心期であった.
 X年Y+1月Z+3週:中期(PBIS・行動変容療法):病識が不十分で怒りのコントロールが困難であった為,怒りの原因や入院時と現在の自身を比較して頂くことで自身を顧みる機会を提供した.結果,周囲への不満を自己対処し怒る事が減っているなど自身の心境の変化点や易怒的になりやすい場面を具体的に表出可能となった.ステージは準備期へ移行した.
 X年Y+2月:後期(行動変容療法):予定外の出来事には抑制困難で易怒的となってしまっていた為,対処法を自身で検討して頂いた.ステージは実行期へ移行した.
【結果】X年Y+3月ADLは概ね自立し入浴も拒否なく可能となった.FABは著変なく,行動変容ステージは実行期へ移行できたが持続は未だ困難な状態であり,ACISは身体性22/24点,情報の交換31/36点,関係性17/20点と改善を認め,対人交流においてセルフマネジメントが可能になった事で,状況にあった適切な対応が可能となり易怒性が軽減した.スタッフや他患者様へ自ら交流する場面が見られスタッフと売店へ買い物に行く等の行動も見られるようになった.
【考察】村井らは「行動分析を行うことで,社会的行動障害を生じるきっかけや状況を避けることが可能となる」と述べている.今回,易怒性の過剰表現により対人関係の破綻に繋がる可能性があったCLに対し,まずはCLと関わるスタッフの環境面を整え関係性の構築を行った.OTでは,対人交流の阻害となっていた易怒性に対しPBISと行動変容療法を用いたことが,自己を振り返るために有用であり,怒りのセルフマネジメントが可能となり自主的に対人交流を図る機会を得ることができたと考える.