第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-9] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-9-6] Go/Nogo課題時の反応時間変動係数とMoCA-Jの関係

木村 修豪1,2, 平野 大輔2,3, 矢野 羽奈2,3, 谷口 敬道2,4 (1.国際医療福祉大学市川病院リハビリテーション室, 2.国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科作業療法学分野作業活動分析学領域, 3.国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科, 4.国際医療福祉大学成田保健医療学部作業療法学科)

【序論】
 高齢社会の進展に伴い,高齢者の認知機能低下を早期に発見することは認知機能低下予防にとって重要である.既存の認知機能検査は検査者が必要となるが,反応時間変動係数(intra-individual variability in reaction time : IIV-RT)は1人で測定可能であり,早期に認知機能低下を発見する指標となり得る.これまでにGo/Nogo課題時のIIV-RTは,神経活動との関連(Chidharom et al. 2021)や複数領域の軽度認知障害(MCI)で増加すること(Chow et al. 2021)が示されている.しかし,IIV-RTとMCIのスクリーニング指標であるMoCA-Jとの関連は明らかにされていない.【目的】
 本研究では,Go/Nogo課題時のIIV-RTとMoCA-Jの関係を明らかにする.
【方法】
 対象は,健常若年成人34名(男性10名,女性24名;平均年齢 21.3±1.2歳)と認知症やMCIの診断を受けていない地域在住高齢者46名(男性36名,女性11名;平均年齢 72.1±3.3歳)を対象とした.IIV-RTの測定は,Go/Nogo課題にて行い,Go刺激に対する反応時間の変動係数をIIV-RTの指標とした.Go/Nogo課題は,画面上に「O」と「S」がランダムに表示され,Go刺激の表示頻度を75%,Nogo刺激の表示頻度を25%とした.半分の対象者はGo刺激を「O」,もう半分の対象者のGo刺激は「S」と設定した.Go刺激はスイッチ押しにて反応し,Nogo刺激では反応を抑制をする.MoCA-Jは高齢者に対して実施した.分析は,高齢者をMoCA-Jの結果より,26点以上を認知機能正常群,25点以下を認知機能低下群に分けて分析をした.健常若年成人と高齢者2群のIIV-RTの3群間比較は,一元配置分散分析を行い,多重比較検定には,Bonferroni法を用いた.IIV-RTとMoCA-Jの相関分析は,Spearmanの相関分析を行った.なお,統計解析にはSPSS27を用いた.本研究は,所属施設の倫理審査委員会の承認を得て実施しており,対象者からインフォームド・コンセントを得て行った.
【結果】
 高齢者は認知機能正常群が31名,認知機能低下群が15名に分けられた.IIV-RTの結果は,健常若年成人が20.0±2.7%,認知機能正常群が20.9±3.3%,認知機能低下群が27.9±3.5%となった.IIV-RTの3群間の比較の結果,認知機能低下群が健常若年成人(p<0.001,d=2.66)と認知機能正常群(p<0.001,d=2.07)に比べ有意に増加した.健常若年成人と認知機能正常群の間に有意な差はなかった(p=0.774,d=0.30).IIV-RTとMoCA-Jの相関分析の結果,r=-0.531(p<0.001)となり有意な負の相関関係を示した.
【考察】
 本研究のIIV-RTは認知機能低下群で増加し,MoCA-Jと相関関係を認めた.先行研究で,IIV-RTはMCI(Dixon et al. 2007)や認知症(Duchek et al. 2009)で増加することが報告されている.本研究の地域在住高齢者の中で,認知機能低下群のIIV-RTが増加したことは,先行研究を支持する結果となった.また,Go/Nogo課題時のIIV-RTの増加は,非効率的な意思決定と反応抑制の努力(Karamacoska et al. 2018),エラー後の適応モニタリング(Chidharom et al. 2021)など様々な機能が影響することが報告されており,これらの機能は高齢者2群のIIV-RTの結果に影響したことが考えられる.本研究の結果からIIV-RTとMoCA-Jには関連があることが考えられ,IIV-RTは地域在住高齢者の認知機能低下を早期に発見するための指標となり得る可能性が示唆された.